【アイナナ】リトルシンガー (ページ47)

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４６ song. ページ47

「八乙女社長さんは、母の歌を愛して、期待してくださっていたのですね。……とても、申し訳ない気持ちです」
「ッどうしてそんな言い方をするんだ！」

　心春の言葉に、万理は強く言い返した。
　突然の怒声にびくりと体を震わせる心春の肩に、彼はそっと両手を置いた。

「心春ちゃんが悪いことなんて、一つもないんだ……だから、そんな、自分が生まれてきたことを後悔してるみたいな言い方は、やめてくれ」
「万理、くん」

　ぐっと、涙を堪えるように眉間に力を籠める万理に、心春もつられて目頭に熱が籠る。そんな彼女に音晴は「万理くんの言う通りだよ」と優しく言った。

「僕は一度しか君のお母さんに会ったことがないから人柄まではわからないけど、心春くんは彼女のことをよく知っているだろう？君のお母さんは、君を生んで後悔するような人だったのかい？」

　心春の脳裏には、小さな自分を抱きしめ、愛おし気に名前を呼ぶ母が浮かんだ。

『なによりも、誰よりも、貴女が大切よ……心春』

　透き通るその声色が幸せに満ちていたことを思い出して、心春の目に大粒の涙が浮かんだ。

「違い、ます、お母さんは、そんな人では、ありません」

　涙ながらにそう言う心春に、音晴も優しく微笑んで一つ頷いた。
　心春の言葉に、万理はそっと彼女を抱きしめた。まるで、生まれてきてくれて、出会ってくれてありがとうと、伝えるような優しい温もりだった。

「あの……なにかありましたか？」

　万理の声が事務所まで届いていたのか、タイミングよく訪れていたIDLiSH7と紡が様子を窺うように社長室に顔を覗かせた。
　万理の腕の中にいる心春の涙にいち早く気づいた陸とナギが慌てて彼女に駆け寄り「どうしたの心春！？」「貴女を悲しませる原因は、私の勢力をもって排除しマス」と騒ぎ始める。
　その慌てっぷりを見ていた心春は、申し訳なく思いながらも、嬉しくなって笑ってしまった。

　母が夢を諦めた原因が自分であることは、彼女の中では変わらない事実だった。
　だけど、自分が生まれたことを後悔なんてしたくない。そう思うことは母の愛情を否定することになってしまうのだと、万理が気づかせてくれた。

　それに、その感情は自分を好きだと言ってくれる人たちの気持ちを踏みにじるような気がした。

「私、八乙女社長さんにも認めていただけるくらい、素敵なシンガーになりたいです」

　そう宣言する心春を、万理は嬉しそうに微笑んで小さな体をより一層強く抱きしめた。