36 song. ページ37
「ねえ、あの子でしょ? いまバズってるの」
「みたいだよ。なんか歌ってる時と雰囲気違うけど」
「小っちゃくて可愛い……」
がやがや。がやがや。
教室の外からの視線が心春へとチクチクと刺さり、なんだかいたたまれない気持ちになって体をそわそわ揺らす。
「良かったですね、森川さん。人気者じゃないですか」
「うう……こんなに見られると緊張します」
「ほおか?」
ポッキーを3本まとめて口の中に突っ込みながらも、環が何でもないように言う。
環がデビューした時も教室の外には彼を一目見ようとたくさんの学生さんが集まっていたことを心春は思い出す。
確かに、その時の環は今みたいにお菓子を食べながらも手を振ってファンサービスをしていた。さすがアイドルだと感心したのは記憶に新しい。
「今や時の人だねえ、心春」
「まさかこんなことになるなんて……思いもしませんでした」
「私は予測していましたけどね」
未だに向けられる視線から逃げるように教科書で顔を隠しながら言う心春に、一織は飄々とした様子で返した。
「私から見ても、あのステージは素晴らしかった。貴女がこれだけの注目を集めるのは当然の結果です」
なんでもない風に言う一織に、心春をはじめ、環や秋菜も目をぱちぱちと瞬かせた。
「いおりんがデレた」
「和泉くんがデレた」
「で! デレてませんけど!」
ふたりに揶揄われて顔を真っ赤にしてそっぽを向いた一織に、心春は嬉しさで表情を緩ませながらも声をかけた。
「ありがとうございます、一織くん!」
無視されちゃうかな? と思った心春だったが、窓に顔を向けながらも小さな声で「……どういたしまして」と返した一織に、彼女の頬はゆるゆるになってしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
放課後。
今後についての打ち合わせがあるからと呼ばれたミーティングルーム。
万理から少し電話応対のお仕事があるから、ちょっと待っててほしいとメッセージが届いたので、ギターをぽろんぽろんと奏でながらも時間を潰している心春の元に、壮五がやってきた。
「壮五さん! お疲れ様です」
「……うん、お疲れ様」
ふっ、とはかなげに微笑む壮五は、どこかいつもと様子が違った。
顔には影がさし、見るからに元気がない様子で、心春は心配になってギターを横のソファに立てかけて彼に駆け寄った。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時