28 song. ページ29
楽しい時間はあっという間に過ぎ、ゲーム大会もおひらきとなった夜。
同じコテージに泊まる紡と楽しく会話をしながらも寝床の準備をした後「少し夜風にあたってきます」と伝えて外へ出た心春。
昼間とはうってかわり、夜空をのみ込んだような川面。空を見上げれば今にもこぼれ落ちそうなほどの星々が闇夜に輝いていてほう、と小さな口から息がこぼれる。
川砂利の上に腰を下ろし、手を伸ばす。掴めそうな気がしたけれど、あの輝きが心春の手中に収まることはない。きっと、アーティストとして成功するのも、それくらい難しいことなんだろうと、彼女は思う。
それでも、母の夢を紡いで、父に歌を届けるために、いつか掴みたい。心春はきゅっと、拳を握った。
「心春さん」
名前を呼ばれて後ろをふりかえると、そこには万理がいた。
「隣、いいかな?」
「はい、もちろんです」
心春の横へ腰掛けた万理は、彼女に倣って空を見上げた。
「綺麗だね」
「はい。 今にも降ってきそうです」
そう言えば万理は「とても詩的だね」と微笑んだ。
「私もあのお星様たちみたいに、輝けるようにがんばりたいです」
「そうだね。でも、どちらかといえば心春さんは太陽みたいだと俺は思うけどなあ」
そんなことを言われて「ええ!」と驚きの声を上げる心春。そ、そんなことを言われたのは初めてだった。
「一緒にいるとその場がぱっと明るくなって、心までも暖かく照らしてくれるから」
「そ、そ、そんなこと」
あまりにも真っ直ぐな言葉で褒められて、涼しい夜風でも彼女の頬の熱は冷めることはなかった。
「君がいつまでも君らしく輝き続けられるように、俺も頑張りますから」
「心春さんは一人じゃないよ」
「一緒に頑張ろう」
万理は、いつもそう言って心春を励ましてくれる。その言葉たちに、いままでどれだけ救われてきたか。
「ありがとう、ございます」
心春が心からの感謝を伝えると、柔らかな微笑みが返ってきた。
自分がもしも太陽ならば、万理は月のようだなあっと、心春は思う。
いつも穏やかに心春を見守り、横を見ればいつもそばにいてくれる。
足元が暗くなって、崩れ落ちそうになっても、柔らかな光で照らしてくれる。
そんな、心春の希望の月みたいな存在。それが、彼女にとっての大神万理だ。
そんな感情を伝えたら万理は驚くだろうからと、そっと心のうちに潜めた心春だった。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時