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「心春さん、荷物はこれで全部かい?」
「はい、お手伝いしてもらって、ありがとうございました!」
最後の段ボールをゆっくりを床へと置いてくれた万理に深く頭を下げる心春。「これくらいお安い御用ですよ」とにっこり笑い返してくれた彼の優しさに、じーんとする胸を服の上から抑えた。
今日から、心春はついに寮生活を始める。
小鳥遊事務所が管理する寮であり、立地も事務所のすぐそばで、管理人さんも配備されてるセキュリティ万全の家。同じ敷地内でも男子寮と女子寮は玄関が分かれていて、男子寮にはIDLiSH7が、女子寮は今のところ心春だけが住む形となる。
紡や社長は「僕たちと一緒に住んでもいいんだよ?」「そうですよ!わたし妹が欲しかったんです!」なんて、優しい言葉をかけてくれて嬉しく思った心春だったが、申し訳ない気持ちが勝りお断りした。
それに、人生初めての寮生活。母が亡くなってからは一人で暮らしをしていたけれど、隣には事務所の先輩もいる。それがすごく、嬉しくて、彼女は無意識に頬が緩ませた。
「じゃあ、心春さん。この寮でのルールを説明するね」
「はい、大神さん」
おほん、とわざとらしく咳ばらいを一つした万理は、人差し指を立てて教師のように一つずつ丁寧に説明を始めた。
「まず一つ目、女子寮には心春さん一人しかいないので、何かあればすぐ俺か紡さんに連絡をください」
「なにか?とは?」
「例えば、体調が悪かったりした時。一人の時に倒れたら大変だからね。非常時に備えて、合鍵は俺が管理させてもらいます」
「は、はい」
「それから二つ目、これが一番大事だよ」
ずず、と顔を近づけて、子供に言い聞かせるような口調で言う万理につられて神妙な顔をして一つ頷く心春。
「緊急時以外で、男を寮にいれないこと!」
「は、はい?」
ごみ捨ての曜日を守れだとか、ご近所に迷惑をかけないだとか。そう言った類のことを言われるかと思っていた心春は、想像もしなかった台詞に目をぱちくりとさせた。
「俺もなるべく必要時以外は入らないけれど、アイドリッシュセブンの皆でもダメ!」
「ど、どうしてですか?」
「心春さんは可愛いから、いつ狼になるかわからないからね」
「おおかみ?」
わおーん。と彼女の脳内で鳴き声が響く。
(狼になる? 皆さんは同じ人間のはずですが……)
いまいち理解できずに首を傾げる心春に、万理は「はああああああ」と大きなため息を吐いた。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時