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43 song. ページ44

心春が歌い始めた瞬間、スタジオの空気は一変した。

 先ほどトークコーナーではおどおどと頼りない印象をうけた少女が、セットのど真ん中で、力強い歌声を響かせている。
 その瞳はどこまでもまっすぐで、まるで別人のようだと誰もが思った。

 TRIGGERの三人も、例外ではない。
 真正面に心春の歌を全身に浴び、熱い感情がこみあげる。
 数時間の関わりの中で、心春の人柄はおおむね理解できていた。気弱だけど明るく正直者で、優しく純真な女の子。彼女を色に例えるなら、染み一つない、純白。

 そんな彼女の人柄は、歌声にも表れていた。
 心から人を想う気持ちが伝わってきて、まるで歌に抱きしめられているような感覚。
 
 スタジオの端で聞いていた姉鷺も優しい暖かさに包まれ、彼女の頬にも涙が一筋零れ落ちる。



 この場にいる誰もが、心春の歌に心惹かれていった。
 
▼ △ ▼ △

「お疲れ様でした!」

 プロデューサーの一言で、番組の収録は終了した。
 無事に歌コーナーを終えることが出来て一安心した心春は、収録序盤よりも緊張のほぐれた表情でスタッフ一人ひとりに感謝とねぎらいの言葉を伝えて回った。

「初収録お疲れ様でした。今日はお祝いの焼肉パーティをしようと社長から連絡があったよ」
「や、焼肉パーティー! 楽しみです!」

 ほくほくした気持ちでいる心春は、TRIGGERの姿を見つけ最後の挨拶にと駆け寄った。

「九条さん、八乙女さん、十さん! 本日は本当にありがとうございました!」

 頭を深く下げてお礼を言う心春に、三人はとても優しい笑みを浮かべて「こちらこそ」と返した。

「森川さんの歌、本当に良かったです。きっとカメラの向こう側にいる人たちにも、森川さんの気持ちが伝わったと思います」

 不思議と天の言葉は、真っ直ぐ心春の胸中へと伝わってくる。
 少し恥ずかしく思いながらも、素直に感謝の気持ちをかえした。

「生で心春ちゃんの歌を聴けて、凄く幸せだったよ」
「龍、泣いてたよな」
「い、言うなよ、楽!」

 龍之介の目が少し赤く見えて、心春の気持ちがちゃんと伝わったのだと嬉しく思う。

「十さん、私の歌を好きになっていただき、本当にありがとうございます」

 大きな手を両手できゅっと握り、想いを伝える心春。
 すると、龍之介の顔がみるみる赤くなっていき、わたわたと忙しなく動き出した。

「あ、あ、握手……! ど、どうしよう! 握手しちゃったよ!」
「お前、ただのファンじゃねえか」

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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時

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