24 song. ページ25
(一織くんが、いなくなった……?)
万理の口から出てきた言葉を理解するのに、暫く時間を要した。
一織は、少し不器用だけれどIDLiSH7のことが大好きで、誰よりもグループの可能性を信じて成長していくことを望んでいるのを心春は知っていた。
自分がしてしまったミスを、気にしないような人なんかじゃない。きっと、誰よりも自分を責めてしまっているだろうことは心春にも容易に想像できた。
一言二言会話をしたのち、電話を切った万理は、心春に視線を向ける。
まるで、彼女の言葉を待っているように。
「……お、大神さん! ついてきて、いただけますか!」
勇気を振り絞ってそうお願いする心春に、万理はすごく嬉しそうに破顔して「もちろん!」と返した。
◇ ◇ ◇
ギターケースを抱えたままの心春と万理は大通りでタクシーを拾った。
一織の行きそうな場所は見当もつかない二人だったが、まだテレビ局の近くにいるであろうと算段をつけ、局よりも少し離れた場所で降り、周辺を探すことにした。この近くはゼロアリーナもある場所だ。
「心春さん! あそこ!」
息を切らせながら万理が指さす方を見ると、そこには一織だけではなく他のメンバーや紡の姿があった。
「皆の夢を、ひとりで台無しにしてしまった……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
そう言って、一織の瞳からは止めどなく涙が溢れて地面を濡らす。
紡が自分のせいだと泣きながら己を責め、三月もつられるように目元を赤くさせた。
そんな皆の表情を見て、心春の目にもじわりじわりと涙が滲んで頬を滑り落ちた。
「心春さん」
万理は静かに心春の名を呼んで、彼女の肩からギターケースを下ろして中身を取り出した。
差し出されたギターのネックをきゅっと握り、心春は大きく頷いた。
「心春……?」
「バンちゃんもいる」
心春と万理に気付いた陸と環が二人を見つめる。連鎖するように皆の視線が心春に移り、真正面から向き合った。
伝えたい言葉は、たくさんある。だけど、一番気持ちを伝えられる方法は、
ビートを脳内で刻み、リズムに合わせてブレスを吸う。
今日出来たばかりの新曲。誰かに元気になってもらいたくて、そっと背中を押してあげられるよな、そんな応援歌。
くじけそうなときは 思い出して
そばには 大切な人がいること
ヒーローにはなれないけど
わたしはキミの 味方だから
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時