２１ song. ページ22
「この間心春さんが作った曲、俺は大好きですよ」
「あ、お鍋のうた、ですか？」
「そう」
その曲は、三月が料理をしている姿を見てたら浮かんできた曲だった。とんとんと手際よく奏でられる包丁のリズム、お鍋の中でことこと煮立つ音色、誰かを想って美味しい料理を作ろうとする優しい気持ちや情景がメロディーとなって溢れてきたのだ。
「心が温かくなって、自分に優しくしてくれる人たちの顔が浮かんで、すごく幸せになれる曲だった」
「……嬉しいです」
「つまり、人の心に届く曲って、そういうことじゃないかな」
そういう、こと？
いまいち答えに結びつけられず首を傾げる心春に、万理は優しく微笑んだ。
「心春さんが、大切な人を心から想う優しくて暖かな気持ちが、曲のメロディー乗って誰かの心にもその感情が移っていくんだと、俺は思うよ」
想い。どうしてそんな大事なことを、忘れてしまいそうになっていたのだろうと、心春ははっとした。
音楽には、いろんな想いが込められている。
恋愛、友情、家族、思想、自己主張。音楽にはいろんなテーマがあって、でもそれらにはどれも「感情」が含まれている。
それに胸を躍らせて、苦しまされて、感動して。そうしていくうちに、その曲たちが大好きになっていって、多くの人の心に寄り添う。
「……わたし、傲慢でした。誰かに気に入ってもらうためだけに曲を作ろうとしていたなんて……作曲者失格です」
「心春さんにとってこの部屋を作ってもらったこともプレッシャーになってるんじゃないかって、社長も心配してたからね」
それは、無いとも言えなかった。
期待されていると感じるほど、いい曲を作らないとと思う気持ちが心春の中にあったのも事実だった。
図星をつかれて「うっ」と頭を垂れる心春の頭を、万理は笑いながら優しく撫でた。
「アイナナの皆が心春さんを気にかけるのも、俺が一生懸命に君を支えるのも、社長がこうして作曲ルームを作ってくれた理由も、たった一つだけだよ」
人差し指を立てて、ウインクを一つ。
「ただ純粋に、心春さんのことが大切で、心春さんの曲や歌が大好きなだけなんだ」
その言葉に、じわりと涙が浮かんで、頬を滑り落ちた。
わんわんと、子供のように泣く心春の背中を、万理はそっと撫ぜる。
(私はこうしていろんな方に応援してもらって、支えられている……私も、そんな人たちを応援して勇気づけられる、そんな曲が作りたい)
そう、心春は心から思った。
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
