16 song. ページ17
心春自身よりも最初にその存在に気付いたのは、ナギだった。
「コハル……?」
そっと顔を覗かれ、心配かけまいと笑顔を作る心春だったが、意思に反して涙は次々と頬を滑り落ちていった。
「久しぶりに、だれかと食卓を囲んだからでしょうか……すごく、嬉しくて」
上手な言い訳が思いつかなくて、素直な気持ちを吐露する心春の肩を、ナギはそっと引き寄せて優しく抱きしめた。反対側に座る陸は今にも泣きそうな表情をしながらも頭を撫でる。
二人の温もりに、余計に安心して涙が出てくる。
「こはるんはこれから、ここでずっと俺らと飯たべるんだから、もう寂しくねえよ?」
目の前にいる環が、柔らかな表情を浮かべながらも、そう言った。
「騒がしくていやになっても、タマとかナギが引っ張ってでも連れ出すだろうけどな」
「NO! ワタシ、女性が嫌がることは絶対にしません!」
「そーだそーだ! おれもこはるんが嫌がることぜってえしねえ! ちょー大切にするし!」
(ああ、もう。本当に、私は恵まれている……こんなにも優しい方たちと出会えたのだから。神様に感謝しなければなりませんね)
そう思って、涙を流しながらもふっと表情を緩ませる心春。
「好きなだけ泣いていいんだぞ。泣いて、泣いて、そんで、ご飯をいっぱい食べて元気になって、いつもみたいに笑ってくれればそれでいいよ」
「これからは、寂しい時はいつでも寂しいって言葉にするんだよ?」
三月と壮五の優しい言葉に、ナギの腕の中でぽろぽろと涙を溢しながらも、心春はしっかりと頷いた。
それから、中断していた食事を再開させた。
肉じゃがを一口含むと、お出汁の優しい風味が口内に広がって、美味しくてまた泣きだした心春を皆は暖かな眼差して見つめた。
両サイドからは「これも食べて元気出して!」とか「魚は栄養満点デス」とか、やたらと箸を口元に近づけられ、戸惑いながらも口を開く心春。
少し離れた所からぼそっと「雛鳥の餌付け」と一織が呟いた。
「心春、明日は何が食べたい?」
「み、三月さんが作られたものは何でも食べたいです!」
力強くそう返せば「……お前、そういうとこあるよなあ」と顔を両手で覆った。そんな彼の耳が赤くなっていることに、突っ込むものは誰もいなかった。
翌日、万理に3時間ほど説教を受けたのち、万理お手製の栄養満点お弁当を貰った心春であった。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時