魔女の世界 ３

〜99〜 ページ3

マイカさんの魔法の影響か、雨が降ってきた。そんな外の空模様を背景に、セレンは話しだした。
「不老不死の魔法は……一言で表すと、時間を巻き戻しているんだ」
「時間を……？ そんな事できるの？」
「んー、まぁ、実際にできてるからね」
　信じられない。時間なんて曖昧なモノを扱えるなんて……

「定期的に体の時間を戻している。だから、伸びた髪も傷も病気も元に戻って、なかった事になる。そうして僕とマイカは、姿形が変わらないまま約170年間を過ごしたんだ」
「……すごいね」
　自分の中に蓄積したものが全て巻き戻る。なかった事になる。それは、喪失と同義だ。傷や病気が元に戻る(だから、セレンはあの魔法を使った時、傷が治った、ではなく戻った、と言ったのだ)分には良いだろうけど、経験とかは……。自分にあったモノを確かに記憶しているのに、実際にはなくなっているなんて……ん？ 記憶……？

「それならセレン、記憶はどうなるの？ 巻き戻らないの？」
「……あぁ、それは父さんと頭を悩ました部分だね。理論の段階で、その欠点に気づいて……試行錯誤に苦労したなぁ……。この通り、僕の記憶は戻っていないよ。君の事もきちんと覚えている。記憶が戻ってしまうという欠点は、無事に克服できた」
「うん、そうだよね」
　"試行錯誤"という部分が気になったけど……具体的には、『試行』というからには試しに使ったんだろうけど、誰に使ったんだろう、とか……マイカさんかな？ まぁ、質問しようと思う程気になったわけじゃないから、いいか。

「あの2人組……この洋館を襲った奴らは、不老不死というよりも、この時戻しがほしかったんだろうね」
「……」
　セレンは普通に話しているけど、私はあれに関しては、あまり良い記憶ではないので黙ってしまう。
　ダメダメ。暗い雰囲気になっちゃう。何か返さなきゃ……えっと……
「あっ。どうして、あの人達はその時戻しについて知ってたのかな？」
「彼らは、どうやら僕の弟と妹の子孫らしくてね。それで知っていたんだろう」
「あぁ、前、いるって言ってたね。何て名前なの？」
「弟がライル、妹がアリアっていうんだ」
「へぇ……あれ？ その弟と妹は不老不死じゃないんだ。ん？ それを言ったら両親もだね」
　この洋館には、セレンとマイカさんしかいなかった。父母、弟妹の姿を見かけた覚えはない。
　何気ない質問のつもりだったけど、セレンは複雑そうな表情をした。もしかして、不味い質問だったかな……？

〜100〜→←〜98〜

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す