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「っ！？……せん……」
「待って！」
驚いて動けないでいると、一瞬で距離が縮まって、私の目の前で止まった先輩が肩で息をしながら、私の腕を掴んだ。
「はぁ、はぁ……待って……」
呆然と見上げた顔は、危機迫っているようにも見えて、今まで触れた中で一番強く掴まれた腕が、もう私の逃げ道も塞いでしまった。
「先輩……どうして……」
「待ってた」
「え？」
「聞きたい事があったから、待ってた」
息が整った先輩が、少し伸びた前髪を煩わしそうにかき上げる。
凛々しい目元が露になって、ドキッとして視線を逸らした。
「……俺の事、好きなんじゃないの？」
「…………え？」
突然投げ掛けられた質問に、思考が硬直してそれしか返せない。
「俺の事、ずっと好きでいてくれたでしょ？
今は？」
先輩が何を言いたいのか、理解できなくて、ジッと凝視してしまう。
切れ長の眼差しが私の答えを待つけど、言葉に詰まって何も出てこなくなってしまった。
「……好きじゃない？好きだよね？」
「…………なんで……そんなこと……」
しつこい位に問い掛けられて、真剣な眼差しに見つめられて、さっきの胸の痛みが蘇る。
「行くんでしょ？フランスに」
「え？」
「ハギョン先輩に聞いた」
「あぁ…………はい……」
お兄ちゃんとは話してたんだ……
そう思って頷くと、私の腕を掴んだままの先輩の手に、グッと力が加わったのを感じた。
「何で行くの？」
「え？」
今度こそ訳が分からない。
「俺の事好きなのに、何で行くの？」
目の前のこの人は、いったい誰だろう？
思わずそう思ってしまうような、さっきからの彼の発言に、只ただ困惑する私。
何でって……
「美術の勉強をしに……」
それしか理由は無い。
すると、先輩の射抜くようだった眼差しが悲しそうに雲って、私を掴んでいた手の力が抜けて、今度はそのまま手に触れた。
「……せん……
「行かないで」
「……え？」
「行くな」
もう……これ以上どうしろと……？
こんなに辛いのに、やっと前を向いて歩けそうなのに……
「……無理…………無理です。
行かなくちゃ………夢が、出来たんです……」
それだけ言うので精一杯で、我慢しきれずに流れた涙を隠したくて俯くと、先輩の綺麗な手の甲に滴が落ちてしまった。
私の事を守ってくれた、その手に。
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作者名：サラン | 作成日時：2016年2月28日 14時
