君が思い出すまで5【煉獄杏寿郎】

237.君がため ページ37

Aへ


　君がこの文を読んでいるということは、

　俺はもう、この世にはいないのだろう。


　最後に君への想いをこの文にしたためたいと思う。


　初めて会った日のことを君は覚えているだろうか。

　君を鬼から助けたあの日のこと、

　俺は今でも鮮明に覚えている。


　綺麗な人だなと思った。守りたいと思った。

　記憶がなく、身寄りのない君が

　煉獄家で過ごすようになると、俺の世界は一変した。


　君と話す度、顔を合わせる度に

　どんどん君に惹かれていった。


　君と想いが通じ合った時、

　俺は紛れもなくこの世で1番幸せだったと思う。


　なれど、俺は鬼殺隊だ。

　いつ命を落としても仕方ない。


　弱き人を助け、自分の責務を全うできるなら、

　大切な人の命を、未来を守れるのなら、

　それも本望だ。


　だから、俺が死んだことは気にしないで。


　君の行く先は長い。


　必ず誰かと幸せになりなさい。



　だけど、俺の最後の我儘を君は聞いてくれるだろうか。


　時々でいいから、思い出してはくれないか。


　君を愛した男のことを。



　情けない奴だと笑ってくれ。

　それほどまでに君を愛しているんだ。


　いつの日か百人一首の好きな歌の話をしたな。


　今君に贈りたい歌がある。



　君がため

　惜しからざりし 命さへ

　ながくもがなと 思ひけるかな




　A、愛している。


　だから、どうか幸せに。




　煉獄杏寿郎






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百人一首 藤原義孝(50番)

『君がため 惜しからざりし 命さへ
　ながくもがなと 思ひけるかな』


　あなたのためなら、惜しくはないと思った命までも、

　こうして逢瀬を遂げた今となっては

　長く生きていたいと思うようになりました。




　この歌を詠んだ藤原義孝は、

　痘瘡(天然痘)にかかって

　わずか21歳の若さでこの世を去った。

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