君が思い出すまで4【煉獄杏寿郎】

198.導かれるように ページ48

「せめて気持ちだけでも…伝えたくてね。」


「ありがとうございます。すごく嬉しかったです。」


　吉次さんは優しく笑う。


「泣くなんて、情けないなあ。

　かっこつけられなかったね。」


「…いえ。」


「…あなたの想い人はあの人でしょう？

　以前、お家の前でお会いした…」


　私はハッとする。


「Aさんは素直だからね。」


「…私、振られてしまったのです。
　
　だから、もう叶わない想いなのですが…。」


　吉次さんは、私の頭をポンポンっと撫でる。


「人の想いは良くも悪くも変わるものだよ。

　好きなだけ想えばいい。

　またいつか、あなたの方を向くかもしれないよ？

　それに私だって、気の済むまではあなたを想い続ける。」


「…吉次さんは、やっぱり大人です。」


「ははっ。それはもういい大人だからね。

　今日はありがとう。家まで送るよ。」




　
　"好きなだけ想えばいい" か…









　そんな想いを抱えながら、


　時間というのは無常にも過ぎていく。




　気がつけば、大正5年の春を迎えていた。


　すっかり雪解けした世界は、


　私の心とは裏腹に、華やかで生き生きとしていて、


　春の訪れを喜んでいるようだった。



　私は相変わらず煉獄家の家事をしながら、

　刺繍工場のお手伝いをして過ごす日々を送っていた。

　吉次さんは、あの後からも何も変わらずに接してくれる。


　
「こんにちは。」


「あら、Aさん！いらっしゃい！」


　私は居間のお花を買いに花森さんのところへ来ていた。


「弥栄子さん、おすすめはありますか？」


「そうねえ、花車(ハナグルマ)なんてどうかな？

　最近入ってきたのよ。」


「へえ〜、赤くて可愛いお花ですね。

　…ん？札に書いてあるこれって？」


　弥栄子さんは手を止めて、私の方は歩み寄る。



「ああ、これね！

　これはね、この花が誕生花になっている日と、

　その花言葉を書いてみたの。」


「…花言葉。」


「そうそう！

　花言葉も結構色々あるのよねえ…。

　書ききれなかった言葉もあるから、知りたかったら

　お花の名前教えてね！」



　私はおもむろに杏寿郎さんの誕生花を探す。


　でもなかなか見つからなくて…


「弥栄子さん、お外の花壇のところも見てもいいですか？」


「もちろん！


　まだ咲いていないものだけど、札はつけてあるから。」










　私は導かれるようにある花の前で止まる。


　

199.その花の名は→←197.咲かぬ花と知っていても

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す