君が思い出すまで4【煉獄杏寿郎】

174.月夜の静寂 ページ24

「あ！Aさん、


　おかえりなさい！」


「ただいま戻りました！」


　玄関では千寿郎くんが出迎えてくれる。


　ふと足元を見ると、杏寿郎さんの草履があった。


　帰ってきてる！


「杏寿郎さん！おかえりになられたのですね！」


　急いで居間へと向かうと、いつもの彼の姿があった。


「うむ！ただいま！」


　私は嬉しくなってしまい、思わず顔が綻ぶ。


「今日は美味しそうなさつまいもが買えたので


　天ぷらにしようと思います。」




「そうか！それは楽しみだな！




　腹ごしらえの前に、湯浴みに向かうとするかな！」





　杏寿郎さんはそう言い微笑んだ。


　いつも通りの彼なのだけれど、


　遠方の任務だったからなのか、


　少し疲れている様子だった。





「Aさん！


　夕餉の準備、手伝いますよ！」


　私は千寿郎くんの声で我に帰った。



「…そうだ。


　千寿郎くん、私が出かけている間に

　和尚さんはお見えになった？」


　煉獄家には時々、槇寿郎さんのことを心配して


　昔から親交のあるという和尚さんが来ていた。




「はい。いらっしゃいましたが、


　父上は変わらずで…部屋からも出てはきませんでした。」



「そっか…。今度、和尚さんが来た時に

　日頃のお礼にと思って、お菓子を作ろうと思うんだけど

　その時は千寿郎くんも手伝ってくれる？」



　千寿郎くんは私を見て頷く。


「もちろんです！」





　夕餉の時間になると、杏寿郎さんは目を輝かせる。



「うまい！」


「ふふっ。良かったです！」


　もぐもぐと口いっぱいにご飯を頬張り、

　さつまいもの天ぷらを食べる。




「兄上！まだおかわりするのですか！？」



「もちろんだ！」



　久しぶりに響いた杏寿郎さんの声は


　聞いている私たちを幸福に包んだ。





　私は湯浴みを終えて、


　縁側で涼もうと廊下を歩いていると、


　先客が腰を下ろしていた。



「杏寿郎さん？」


「…Aか。」


　やはり、少し元気が無さそうな気がする。


「任務、お疲れ様でした。」


「うむ。ありがとう。


　本当は2日前に任務は終わっていたのだがな、

　
　寄らなければならない場所ができてしまってな。


　遅くなってしまった。」


　杏寿郎さんはそう言うと、月を見上げる。


「そうでしたか。」



　二人を静寂が包み込む。



「なあ、A。」





「はい。」





「今宵は枕を重ねてくれないか？」

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