君が思い出すまで3【煉獄杏寿郎】

134.女の約束 ページ34

　次の日の朝、

　私宛に一通の文が届いていた。


　差出人は華恵さんからだった。


　
　私は自室で慌てて封を開ける。


　"Aさんへ


　突然のお便り、すみません。

　どうしてもあなたに伝えたいことがあったので、

　この想いをしたためました。


　杏寿郎さんからお聞きになったと思いますが、

　この度、私は西洋に渡ることにしましたの。

　昔から興味があって、

　勉強してみたいと思っていたのです。


　杏寿郎さんとのことですが、

　婚約関係は破棄にさせていただきました。


　私ね、ずるい女だったのよ。


　もうあなたも杏寿郎さんの気持ちに

　お気づきだと思うからお伝えします。


　杏寿郎さんがAさんを慕っていること

　分かっていたの。


　あなたも杏寿郎さんを慕っているのでしょう？


　二人の思いに気付いていても

　私は杏寿郎さんを繋ぎ止めたかった。

　酷い女なのよ。


　でも、次第に苦しくなってきたの。

　私は苦しみから逃げたくて、婚約破棄したのよ。


　あの日、杏寿郎さんが大切な話があると言って

　私の家に来た時、きっとあの人は

　正直な気持ちを伝えて、縁談を断ろうとしたのよね。


　でもね、私も一人の女。

　これ以上惨めな自分はごめんだったから

　彼の話は聞かず、私から一方的にお断りしたの。


　私はあなたが羨ましい。

　
　人の思いって難しいのね。

　どれだけ思っていても、

　相手は自分を思ってくれないこともある。


　逆に言えば、思い合えたのならそれは奇跡よね。


　ねえ、Aさん、

　私の去り際、どうだったかしら。

　素敵な女で終われたでしょうか？

　こんなこと、あなたに文にしてしまうのだから

　きっと台無しよね。


　でも、女同士の約束をして欲しいの。

　この文のことは、杏寿郎さんに内緒にして欲しいの。

　

　それから、



　必ず幸せになりなさい。




　私が身を引くのだから、二人で幸せにならなければ


　私は許しません。




　私の最後の願い、ちゃんと聞いてくださいね。



　約束ですよ。


　


　華恵 "
　

　



　私はその文を読み終えると、



　
　誰にも聞こえないように


　
　気づかれないように




　声を殺して泣いた。

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