君が思い出すまで3【煉獄杏寿郎】

146.月のような手 ページ46

〈杏寿郎 side〉

　
　俺の左隣を歩くA。

　
　君は気づかない。




　先程から何度も、俺の左手を気にしていることは

　俺は知っている。


　恥ずかしそうな顔をしたり、

　困ったような顔をしたり、

　落ち込んだ顔をしたり、

　君の表情はコロコロと変わるから

　見ていて飽きないんだ。


　あ、ほら。


　君は俺の左手に少しだけ触れてきた。

　ほんの少しだけ。


　期待を込めたその眼差し、俺には見えている。


　ちょっとだけ意地悪をしたくなってしまって


　何もしないでいると、


　君は本当に寂しそうな顔をするから


　我慢できずに手を取って握ってしまった。


　すると君は可愛く笑うんだ。


　心の底から愛おしいと思う。



「私、杏寿郎さんの手が大好きです。」


「ん？」



「太陽みたいで…


　暗いところにいても、


　人を照らして引っ張り出してくれるような…


　あなたの手が大好きなんです。」


　Aはこんなにも嬉しいことを言ってくれる。




「俺もAの手が大好きだ。

　
　君の手は月のようだな。


　暗い世界でも一際輝いて、


　俺の心を癒し、満たしてくれるんだ。」

　
　俺がそう言うと、君は頰を染めて

　握った手にぎゅっと力を込める。


　可愛らしい。


　いつまでも君の手を引いていたいと思う。

　鬼なんていない世界で、何も気にすることなく

　君と共に安心して眠れる毎日を過ごせたらと思う。


　でも、そうはいかないから




　俺は刀を手に鬼を狩る。




　君の笑顔を守るために。


　君との未来を見るために。

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