1.母校 ページ4
僕の母校は、長く緩やかな坂の下にある。今は春休みだが、部活で登校している生徒がいるため、運動部の掛け声や、合唱部の発声練習で校内は賑やかだ。中学生の頃はほぼ毎日通っていたのに、緊張して背筋が伸びる。それに、少し場違いな気もしてきた。「落ち着けー」と、心の中で自分に言い聞かせた
その瞬間、
「甘味くん!」と、偶然、死角にいた広川先生に声をかけられ、思いっきり出そうになった大声を喉の奥に押し込んで誤魔化した。
「あっ、ひろ‥か、わ先生おはようございます」
「おはよう、甘味くん、いや〜、まさか君が学校の先生になるなんて、長い人生いろんなことがあるもんだねー。…ん、ということは君は僕の同僚になるのか。」
『同僚になるのか』と言った後、少しニヤニヤしたので、嫌な予感がしたが、これ以上しゃべると校長室に行くのが遅れると思ったので、
「校長室に行くので、また後で話しましょう!」
と言って、校舎に入った。
校長室は、職員玄関から入ってすぐの所にあった。
扉の前で、息を整えドアをノック……
「失礼します……いないのか?」
部屋の電気はついているので、いらっしゃるはずなのだが、姿が見当たらない、「こういう時は職員室で、校長先生がどこにいるか聞けばいいのか?」と考えていたら、隣の職員室と繋がっている扉から、校長先生が大量のプリント(というよりかは、大量のふせんで厚みが増えている)を抱えて、慌ただしそうに入ってきた。校長先生は、デスクにプリントを置いたあと、僕を見つけ、
「待たしてしまった、申し訳ない」
と言った後、デスクの引き出しの中を ガサゴソ しながら一枚のプリントを出して、僕に手渡した。
「君の担当するクラスは、2-2で、2-2のもう1人の担任は、熊稲先生だから、職員室に行ったら詳しいことは、熊稲先生に全部聞いてね! 僕は、PTAバレーの集まりに参加して、地域老人スポーツ振興会の会長とお会いして、運動場の使用時間とか、中学生との交流会のこととか、決めたり、…とにかく忙しいのでそれじゃあっ、」
と早口で、喋りながら、華麗にジャケットを着て、鞄を持ち、慌ただしく校長室を出ていった。
校長先生の勢いに、終始圧倒されていた僕は、数秒間ポカーンとした後、いちおう校長室の電気を消したあと、小さな声で「失礼します…」と言って部屋を出た。
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つりかた(プロフ) - 応援してます。頑張ってください (2017年8月11日 17時) (レス) id: 23a517b3c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんずジャム | 作成日時:2017年6月19日 20時