- 屋烏之愛

- ページ8

.








( ...... ゆづ、 )




ゆづが心配で探し続けて、やっと見つけたのはエレベーターホールの一角

何を考えているのかそっと近づいても気付く気配すらない


.. 声、かけないほうがいいかな なんて悩んでいる最中



「 .... Aちゃん、 」



泣きそうな声で呼ばれた自分の名前に胸が酷く締め付けられる


「 っ、.. なあに、 」


殺し文句にも程がある、なんでそんなに縋ってるかのような声を出すの、？


勢いよく振り向いて なんで、って切れ長な綺麗な目を見開くから、心配していた旨を素直に伝える



今にも泣き出しそうな表情についひと月前、ゆづがわたしにしてくれたことを思い出した


つい2、3年前まではハグなんか当たり前だったし、その距離感に心地よささえ感じていたのに

心地よさに加えて煩くなる心臓

その動悸の激しさに気づかれたくなくて、赤くなりそうな顔を見られたくなくて

急いで離れて冷たい氷上の風に当たった



でも今は目の前に佇む貴方をどうにか元気付けたくて

私なんかが烏滸がましいかもしれないけどね、



ん！と両手を広げると勢いよく飛び込んでくる私より身長も肩幅も何もかもが大きくなったゆづ



私の肩元に顔を埋めてぎゅうっと抱きしめてくるゆづに嫌でも体格差を感じて寂しくなる



薄々感じているゆづがどんどん羽生くんに近づいていくことへの言いようのない寂しさ



転生して、ゆづと出会ってから約10年

貴方はもうあと3年も待たずに世界の羽生くんになってしまう



いくら転生できて貴方と幼馴染になれたって世界の羽生くんは私の元を離れていくだろう、仕方がないことだって分かっている




そんな考えを掻き消すかのようにゆづの両頬を包む



「 大丈夫だよゆづ、絶対にできるから安心して 」


だって貴方は羽生結弦なんだから




「 .. それはずるいよAちゃん、 」



もう一度強く抱きしめてくるゆづを堪らなく愛おしく感じている自分がいて、決してこんな感情抱いていいものじゃないはずなのに、自分を苦しめるだけなのに、




.. もう少しだけ、私の元で、わたしのゆづでいてくれないかなぁ、





「 .. 痛いよ、ゆづ、 」




何処が、なんて言えたものか、









.

続く お気に入り登録で更新チェックしよう!

最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している


←-

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す