悪魔祓いとガラスの陽だまり 8 ページ29
あまりにも分が悪い。私は不毛な戦闘を強いられていた。私の戦闘方法は不意の攻撃を仕掛けることを苦手としている。一瞬の隙が命取りとなる現状は最悪だ。
悪魔は足元に旋風を作り出し、小さな黒い竜巻を形成していた。旋風が動く。
飛んでくる！
『祝福あれ』
詠唱と共に魔導書から光の線が三本飛んでいく。黒い旋風に巻き込まれるように渦に飲まれ、光は飛散した。散り散りになった光は逆に旋風を包み込み、相殺して消えていった。
「あの教会跡地の前に、悪魔がいるんだ。その場を動かず、全員警戒しておいて」
「……うん」
話す余裕はほとんど無かった。奴は私達に接近し、直接攻撃を仕掛けようとしている。その場合、最も危険なのはきんときだ。先日悪魔の瘴気にあてられたばかりの彼に、また何かあったら大きな負担になるだろう。
悪魔がこちらをじっと見つめてくる。その目を見ていると、宇宙の奥深くに落ちるような感覚がした。後ろにいる子ども達の様子は分からない。
突然、背後から小さな影が飛び出す。それはシャークんだった。彼は周囲のフェンスや手すりを飛び移りながら、悪魔の元へと一直線に向かっていく。まるで、彼には悪魔が見えているかのように。
「やめなさい！ 危険だ！」
「いい！ おれは大丈夫！」
止められない。ならば一刻も早くこの戦闘を終わらせる。彼には絶対に触れさせない。
魔導書を開き、また指先を噛み切った。赤黒い血で文字を綴っていく。先程までNakamuと繋がれていた右手は温度を保ち、油を差した機械の如く動いてくれる。
ふと、私の真横をまた影が通った。今度は、前から。あまりにも一瞬のこと。はっとした瞬間には遅かった。悪魔の背中に向かって叫ぶ。
「やめろ！」
見えない悪魔の急襲に、三人は何も出来ない。悪魔は尖った爪の付いた大きな手を振りかざそうとする。自分の身体をその間に滑り込ませた。右肩の辺り、布越しに電流が走るような痛みが刺す。悪魔は私が危惧したことを分かっていたかのように、きんときのことを狙ったようだ。
『光の加護よ、ここに降れ』
魔導書から放たれた輝く矢が、雨のように降り注ぐ。傷口から痺れを感じていた。頭が回らなくなってくる。ただ、平穏を守りたい。それだけなのに。
悪魔は光に身を焼かれ、悶えているように見えたが、また足元に旋風を作り、教会跡地の中へと逃げていった。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
