１０５公演目 ページ7
『は、お前何でこんなとこに、』
私が捲し立てると肩を引っ張った張本人だったシャークんが人差し指を口の前で立てる。それに合わせるように私の言葉も止まった。
『何が起きてるんだよ』
「……無差別殺傷だ」
空気を混ぜた、出来るだけ静かな声で言う。路地裏に生える雑草ですらその張り詰めた空気に慄いているようだ。
彼は一通り周囲を見渡すと、煉瓦にへばりついた配管と出窓に手足を掛けて上り始めた。着いてこい、とだけ言ってどんどん上がっていく。
彼の身体能力に着いていけるだろうか、などと危惧している暇はない。軍人が一般人の家を上るという構図に多少やましさを感じつつあったがやむを得ない状況だ。
上りにくかったものの、何とか到着した屋根の上からは現場であろう場所がよく見えた。数人の人間がうろつき手には鉈のような物。滴り落ちる血が点々と跡を作っている。女と思わしき人が倒れ、紅い染みを広げていた。物騒にも程があるだろう、この街。
『どうする。あれ、私達の管轄じゃないでしょ』
「だから俺らはさっさと戻るぞ」
訳が分からない所でお人好しなこいつがそんな返答を寄越してくるとは思っておらず、少々面食らってしまった。
「俺はお前を連れ戻しに来ただけだよ。あいつら、緑の目の女ばっかり狙ってっから」
『……そんなのこの街に大勢いる。そいつらは見捨てるってこと？意味がわからない』
逃げ惑っていた奴らの中にも該当者は何人もいただろう。あんな状態の人間が正常な判断を下せるはずがない。
私も大概お人好しだったのかもしれない。否、私のはただの自己満足に過ぎないのだろうが、これ以上被害を拡大させる訳にも行かない。
軍人だからとか、国民のためとか、そんなのどうせ本心をコーティングするためだけの嘘。でも、落ちこぼれでも誰かの役に立ちたいと思ってしまう。
本能に逆らえないから？自己顕示欲を満たしたいから？それならそれで十分だ。どうせこの世界の誰もが気にしているのは結果だけ。私の気持ちとか、そんな過程はどうだっていいんだから。
隣の家、そのまた隣の家と屋根伝いに近づいて行く。微かに聞こえた静止の声は無視。
「お前一人で何とか出来んのか？」
いつの間に追い付かれていたのか、耳元で聞こえた声は無視出来るそれとは訳が違う。
『日和ってる時間が勿体ないから』
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葡萄(プロフ) - 影猫さん» ありがとうございます！そう言って頂けてとても嬉しいです…… (2020年4月5日 21時) (
レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても楽しく読ませて頂いてました。これからも応援しています……！ (2020年4月5日 18時) (レス) id: aed6496161 (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 出水さん» ご心配おかけしてすみません……じきに治りますから大丈夫です！お気遣いありがとうございます。 (2019年12月29日 15時) (レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
出水(プロフ) - 大丈夫ですか！？無理しないでくださいね！いつまでも待つので焦らずに更新頑張って下さい！ (2019年12月29日 0時) (レス) id: 7f5238b76f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2019年12月4日 22時
