１０２公演目 ページ4
『は？』
私が偽善者？私が最も嫌いな人種。私の口からは呼吸に混じって、糸のようにすぐに切れてしまいそうな笑いだけが零れた。
『私は偽善心なんてこれっぽっちも持ってない』
それどころか、私には普通の人が持っている優しさすら無いのだから。無いはずだから、だからどうか否定して。今までの私が馬鹿馬鹿しくなるから。今までずっと、何もかも壊してきた私が惨めで仕方なくなるでしょ。
目尻に溜まった液体が視界にぼかしをかけて行く。下唇を強く噛むとじんわり、ゆっくりと鉄の風味が広がった。
彼は残酷に優しい目をして、私の右頬に手を伸ばした。冷たい指先が皮膚を滑り肩が揺れる。
『や……めて』
奥歯がぶつかり想像以上にか細く震えた声が出た。彼の手を抑える。
「ほら今もだ」
彼の嫌になるほど心地よい低い声が鼓膜を揺らした。そして彼は抉るように言葉を続ける。
「お前は人を傷付けるのを極端に嫌う癖に、へったくそなんだよ」
お前だってへったくそな癖に。もしもお前が偽善者じゃないというのなら、私なんかよりもずっとへったくそで、不器用で、嘘つきな癖に。
瞳からつぅと涙が頬を伝って落ちていく。幾度と無く味わった感覚のはずなのに、どうしてこんなに温いのか。
『そう言うなら、やっぱりお前は私に似てる』
『全部許して欲しいなんて無責任なことは言わないけど、でも、どうか、仲間だと言う事くらい許して』
プリズムの閃光の動きが停止し、いつぞやのように時間が止まったようだった。
彼は翡翠に似た双眸を下手くそに細め、手を差し出して言う。
「俺もお前もここ以外居場所なんて無いだろ」
その手を握り返す。冷たい指先から感じるほんの少しの温もりが彼の拙い優しさのようだった。
騙し合い。
誰かに優しくしろとか、道徳観とか倫理観とか、常識だとか。そんな馬鹿げたものに縛られて自分を落とし続ける人生ならば、無くなった方がずっと楽でしょ。
でも、それでも誰かの一滴の優しさを求めてしまうのが人間の性だなんて皮肉にも程がある。
その日は私の今までの人生の中で一番涙を流した日。
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葡萄(プロフ) - 影猫さん» ありがとうございます！そう言って頂けてとても嬉しいです…… (2020年4月5日 21時) (
レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても楽しく読ませて頂いてました。これからも応援しています……！ (2020年4月5日 18時) (レス) id: aed6496161 (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 出水さん» ご心配おかけしてすみません……じきに治りますから大丈夫です！お気遣いありがとうございます。 (2019年12月29日 15時) (レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
出水(プロフ) - 大丈夫ですか！？無理しないでくださいね！いつまでも待つので焦らずに更新頑張って下さい！ (2019年12月29日 0時) (レス) id: 7f5238b76f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2019年12月4日 22時
