１１５公演目 ページ17
突然、白い壁にヒビが入っていく。小さく細かい揺れが起きたかと思えば、壁は見事に何も無かったかのように消え去り、その欠片一つも残っていない。私達が立っていた白い床だけが無機質に残っていた。その下には小高い丘らしき広大な草原が続き、頭上には一滴の濁りも澱みも無い青空がどこまでも広がっていた。
「ほんとだったんだね」
困ったような、それでいて安心したような、もしくはふつふつと湧いてくる怒りを鎮めたいのか。そんな感情の入り乱れた表情をしていた。潤んだ彼の瞳から涙がまた一筋流れて落ちた。
『私の処分は任せる。部隊を離れる決意もしている』
していない。嘘だ。彼らが起こす世界の変革を私は一番近くで見ていたい。仲間だと名乗りたい。素直に笑いたい。そんな普通で簡単なことが出来ないのは、全て自分に起因することはよく分かっている。
「……じゃあ、部隊長として処分を下すよ」
小さく一呼吸し、Nakamuが言う。聞き慣れて耳に馴染んだその声がやけにゆっくりと聞こえた。
「部隊ルノワールに残ること。残って、俺達と革命をすること」
許された。生温い許容の、馬鹿馬鹿しい温情の、その繊細さは蜘蛛の糸のようだ。誰一人として怒りを私にぶつけない。そんなのおかしいとはっきり言いたいのに、温もりを失うのが怖かった。否、本当は心の奥底では憎らしくて仕方がないのだろう。が、彼らは私に制裁を食らわすには甘すぎたのだ。
そうだとしても、私の罪という錨は落とされてなどいない。
『お前、正気なのか。私はお前の仲間を』
「だって！だって今は、Aも俺の仲間だよ。どっちかだけ選ぶなんて、そんなの無理に決まってんじゃん。事故当時とは全然違うんだよ」
無意識に私は彼に重い決断を迫っていたのだ。この忌々しい程に運命的としか言えない、偶然とは思えない出会いが、何故こんなにも多くの人間の人生を狂わせてしまうのだろうか。
「Aは部隊から離れてもいいの？それがAの本心なの？……俺は嫌だよ」
暖かい風が心地よく頬を撫でる。自分の目から流れた涙がその風に少し揺られて軌道を変えた。
『良いわけないでしょ』
私がそう言うと、彼は満足気に笑みを浮かべた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葡萄(プロフ) - 影猫さん» ありがとうございます！そう言って頂けてとても嬉しいです…… (2020年4月5日 21時) (
レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても楽しく読ませて頂いてました。これからも応援しています……！ (2020年4月5日 18時) (レス) id: aed6496161 (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 出水さん» ご心配おかけしてすみません……じきに治りますから大丈夫です！お気遣いありがとうございます。 (2019年12月29日 15時) (レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
出水(プロフ) - 大丈夫ですか！？無理しないでくださいね！いつまでも待つので焦らずに更新頑張って下さい！ (2019年12月29日 0時) (レス) id: 7f5238b76f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄 | 作成日時：2019年12月4日 22時
