１１３公演目 ページ15
「今から二年くらい前。Aもよく知ってると思うけど、この街でとある事故が起きた。その事故では一人が死亡、複数人が重軽傷を負った。死因は魔法の暴発によるものだった」
その魔法の暴発が、人為的に引き起こされた物だと彼は知っているのだろうか。自分の瞬きの回数が増えているのがよく理解出来た。
「俺は偶然その場に居合わせて、仲間がおかしくなっていく所を呆然と見てた。怖かったよ。あいつが、俺の方を見て言ったことを俺はよく覚えてる」
当時を思い出しているのか、ゆっくりと彼の視線が私から逸れていく。
「なんて言ったと思う？」
少し上擦った声で彼は言った。私が彼の質問に答える間もなく彼は続ける。彼が自分自身に当時を想わせる為に聞いたかのように思えた。
「……助けて、って言ったんだ。俺は助けを求められたのに、何も出来なかったんだよ。それが俺が背負った罪。仲間が大事なんてよく言えたもんだよね」
彼はひとしきり話終わると綺麗に笑顔を作り、そして火に炙られた蝋人形の様に表情を歪ませた。一筋涙が流れたのを皮切りに、ぽろぽろと彼の美しいアパタイトにも似た瞳からそれがこぼれ落ちていく。
「大き過ぎる物は守れないんだよ、A。でも俺は仲間一人も守れなかった。俺があいつを見殺しにした」
『違う』
彼がそれ以上話すのが嫌だった。遮るように私が発した言葉で、彼はその大きな瞳を、更に目尻が裂けるほどに開いて言う。
「何が違うんだよ！そんなの優しさじゃねぇじゃん」
強かに、しかし幼気な子どものように彼は言い放った。罪を認めて欲しいという気持ちの、その心を蝕む感覚を私はここに来てからずっと感じていた。
「……あいつね、よく言ってたんだよ。落ちこぼれがもっと胸張って歩けるようになればいいのにって」
彼は自らを落ち着かせる為か、溜息をついてからまたぽつぽつと話していく。
「もしかしたらまだどっかで生きてたらって思って、それであいつの言ってた通りの世界になってたらきっと許してくれるんじゃないかって、それで……」
それでこの小隊を作った。ギルドの事故に少しでも関わった人間を集めた。結局彼の行動も自分の為だった。
また焦点がずれていくNakamuの瞳には私は映っていなかった。そのどこまでも澄んだ目は絶対に叶うことの無い夢を、幻想を語っていた。
「そんなこと、あるはずないけどね」
彼は赤く腫れた目尻を下げて、下手くそな笑みを浮かべていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葡萄(プロフ) - 影猫さん» ありがとうございます！そう言って頂けてとても嬉しいです…… (2020年4月5日 21時) (
レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても楽しく読ませて頂いてました。これからも応援しています……！ (2020年4月5日 18時) (レス) id: aed6496161 (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 出水さん» ご心配おかけしてすみません……じきに治りますから大丈夫です！お気遣いありがとうございます。 (2019年12月29日 15時) (レス) id: 63db2b6d1b (このIDを非表示/違反報告)
出水(プロフ) - 大丈夫ですか！？無理しないでくださいね！いつまでも待つので焦らずに更新頑張って下さい！ (2019年12月29日 0時) (レス) id: 7f5238b76f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄 | 作成日時：2019年12月4日 22時
