違うんだよ【狗巻棘】

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「私が彼方家相伝の術式を継いでいたと知って、家の者を大いに喜んだ。それから私は、蝶よ花よと育てられたってわけ」


「それから、婚約者とかは決めないことになったんだ。私が婚約者を殺したという事実に代わりはないからね」


「七巻家の人とは、今も関わりがあるんだ。あの人達優しいからさ、君だけでも生きてきてよかったって···」



「どうよ、私の話」



狗巻を見ると、彼は、悲しそうな顔をしていた


悲しそうな、苦しそうな、泣きそうな


はは。そんな顔、させるつもりなかったんだけどな


「···ありがとう、狗巻。私明日任務あるから、もう部屋戻るね」


私は立ち上がって、狗巻から離れようとした


すると─────




ぎゅっと、狗巻は、私の手を、両手で握った


「狗巻、」


「おかか、たかな。いくら」


「しゃけ、めんたいこ」


必死になにかを伝えようとする狗巻


ごめんね、わからないよ


心でごめんね、と謝ると、狗巻は口元のファスナーを下げた


そして口パクで


『す き だ よ』


私には、そう見えた



ぎゅっと、私の手を握る手に力が入った



あれ····



なんだこれ



ドクドクと脈打つ心臓


まるで、あの時のように



『君が殺したんだよ』



私は、狗巻を、目隠し越しに見つめた


「─────ごめんね」


狗巻の目が見開かれた



「ごめんね、狗巻。私達は」



「似てるけど、違うんだよ」



狗巻の手からするりと抜け、私は教室から出た



「ごめんね。ありがとう、狗巻」

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