【過去編】髪の短い少女(五) ページ43
「ごめん、私のせいで……」
その言葉で理解した。
俺が風邪なんて引いたから、しかも惨めったらしく泣いてなんかいたもんだから、彼女に罪悪感を感じさせてしまっているのだと。
気づいた瞬間、俺は勢いよく体を起こした。
「ち、違うよ!」
勢いよく起きて否定する冨岡に、少し驚いた様子のA。構わず彼はつづけた。
「Aのせいじゃない。ごめん俺、君を男だと勘違いしてて」
「え」
「一緒に風呂に入ればもっと仲良くなれると思って……」
「……」
「ごめん、凄く失礼で、浅はかだった」
一日中安静にしていた冨岡は、その時既に体調はかなり回復しており、喉の痛みはおさまっていた。
こんなに長くAと言葉を交わしたのはそれが初。
彼女は俺の言い分を、今度は最後まで、少し目を見開きながら聞いていてくれた。
「ただ、Aと仲良くなりたかっただけなんだ」
そして最後にそう告げた時だ。
その瞬間の光景は、今でも鮮明に思い出せる。
「なにそれ……」
Aはそう静かに呟いて、そして小さく、小さく微笑んだのだ。
微かに頬を染め、控えめに出たその笑み。
ストン、と、何かが落ちる音が聞こえた気がした。
Aが心から笑ったのを初めて見た瞬間だった。
そして俺は、どうしてこんなにも可愛らしい少女を今まで男と勘違いしていたのかと自分を卑下した。
次の日、すっかり元気になった俺とAは、顔を合わせた事を叱られた。やはり先生にはバレていたのだ。
それ以来、相変わらずAの表情筋は固いままだったが、心なしか態度が柔らかくなった。
何処もなく打ち解けた自覚が冨岡にはあり、そしてそれは間際もない事実でもあった。
錆兎に頬を殴られた時、その後こっそりAと会話をしたのを覚えている。
「私も、錆兎に殴られたことあるんだよね」
「え、そうなの」
頷く彼女はその時を思い出すように頬を摩り呟いた。
「大切な人の意思を、生き残った者が受け継ぐべきだなんて、そんな考え、彼奴に言われるまで思いつきもしなかった。ただ悲しむことしか出来なかったから」
「……」
同じ気持ちだった。
ただ黙って俺は彼女の話を聞いていた。
「私もあんな風に強く生きたい」
雷に打たれたようだった。
ただ黙って努力を続けていたAは、自らを他人と比べるなんてせず、いつも自分自身とだけ闘っているのだと思っていた。
そんな彼女が誰かを褒めるのは新鮮かつ、説得力があった。
多分これが、自分の勘違いを生んだ原因の出来事である。
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めろん(プロフ) - 今まで読んだ全ての作品で1番良かったです。ここまで鬼滅の刃の世界観を崩さずに、作品を作れるのは本当に凄いです。作者様の鬼滅愛を感じました。良い作品を作ってくださってありがとうございます。本当に感動しました。 (2020年5月29日 0時) (レス) id: 81c5db83e3 (このIDを非表示/違反報告)
Hashida(プロフ) - 夢小説を読んでいてよく思うのは、(このキャラこんなこと言わないでしょ)というキャラ崩壊のガッカリ感で、よく萎えていたのですが、この作品は全くそんなことなくてとても面白かったです!もう1つの作品も大好きです!頑張ってください! (2020年2月6日 12時) (レス) id: 3c3060ecea (このIDを非表示/違反報告)
わか(プロフ) - かなえさん» 返信が遅れてしまってすみません。長文コメントありがとうございます笑 沢山の文字でとても嬉しいお言葉に感謝です笑 楽しんでいただけて良かったです^ ^ (2020年1月31日 14時) (レス) id: 195d1979fa (このIDを非表示/違反報告)
かなえ(プロフ) - ああああ、、、、、、!!たまに居る占ツクの文才作者や、、、。ついに鬼滅で見つけた、、、。しかも支部によくいる文章も書けて絵も描ける系のひとや、、、。あなたみたいな人を見つけることが本気稀にあるから占ツクも捨てたもんじゃないなって思います。長文失礼。 (2020年1月18日 20時) (レス) id: 507f83f0de (このIDを非表示/違反報告)
わか(プロフ) - 葉月さん» わかります笑 時々すごく面白い作品を見つけた時すごくテンションあがりますよね笑 葉月さんにとってそれがこの話であってくれたなら幸いです^ ^ コメントありがとうございました! (2020年1月16日 21時) (レス) id: d2a45a75c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わか x他1人 | 作成日時:2020年1月3日 9時