望まないこと ページ26
冨岡を招き入れたものの、そのあとどうすればいいのかAにはわからなかった。
とりあえず客間に座布団を並べて二つしき、片方に奴を座らせる。
「あの、今お茶菓子を……」
「構わない」
その言葉で、グッと動きを止めるA。
くそう、時間を稼いで心を落ち着かせようと言う算段は崩れ落ちた。
行き場のなくなった自分の体は、自然に冨岡の前の座布団へと沈む。
渋々そこへ腰を下ろした。
何処となく湧いてくる罪悪感が、Aを居心地悪くさせた。
原因は、やはりここ半年、何の音沙汰もなく、さらには隠れて見合いに行こうとしていたことだ。
そんなものAの勝手であるし、わざわざ彼に告げる義理も別にないのだが、何故だか悪いことをしているような気分になった。
「……よくわかったね、私の家」
「先生から聞いた」
やはりそうか。
バレるとしたらそこしかないとわかっていた。
しかし何故、どういう経緯でそれを聞くに至ったのかはわからない。
冨岡からわざわざ尋ねたのだろうか?
まさか、そんなわけないか。
しかし、その考えが全くの間違いであることを、すぐに思い知らされる。
「縁談を受けるというのは本当か」
ゆっくりと、Aの瞳孔が開かれた。
今の言葉が冨岡から言われたことが信じられなかった。
膝の上で握り締めた拳が小刻みに震える。
爪が食い込み、ヒリヒリと痛みが広がるが、Aが力を緩めることはなかった。
「どうして、それを……」
「先生から聞いた」
偏頭痛が、ひどい。
立ちくらみの時に起こる目眩がAを襲う。
胃の中のものが逆流してきそうだった。
耐えきれず、目を閉じる。
それでも、それらの不快感が治る様子はない。
そんなAに、冨岡は追い討ちをかけた。
「……何故」
「何故ってなに?」
冨岡の言葉を遮るように、彼女は言った。
らしくもない、Aの強い口調の声色が部屋の中に響き渡る。
それは、冨岡はもちろん、A本人も驚くことだった。
「A……?」
彼の戸惑う返事が返ってくる。
こんな声をこの人に出させてしまっているのは、紛れもなく自分だ。
それでも、感情を収めることができなかった。
「それ、わざわざ家まで来て聞くこと?」
「……」
「どうして、ただの相弟子にいちいち理由を言わなきゃならないの?」
「……A」
「何でこんなところまで会いに来たの……っ」
責めるような口調が最後まで続くことはなかった。
蚊の鳴くような掠れた声へと変わったそれは、最早泣き声と同じようであった。
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めろん(プロフ) - 今まで読んだ全ての作品で1番良かったです。ここまで鬼滅の刃の世界観を崩さずに、作品を作れるのは本当に凄いです。作者様の鬼滅愛を感じました。良い作品を作ってくださってありがとうございます。本当に感動しました。 (2020年5月29日 0時) (レス) id: 81c5db83e3 (このIDを非表示/違反報告)
Hashida(プロフ) - 夢小説を読んでいてよく思うのは、(このキャラこんなこと言わないでしょ)というキャラ崩壊のガッカリ感で、よく萎えていたのですが、この作品は全くそんなことなくてとても面白かったです!もう1つの作品も大好きです!頑張ってください! (2020年2月6日 12時) (レス) id: 3c3060ecea (このIDを非表示/違反報告)
わか(プロフ) - かなえさん» 返信が遅れてしまってすみません。長文コメントありがとうございます笑 沢山の文字でとても嬉しいお言葉に感謝です笑 楽しんでいただけて良かったです^ ^ (2020年1月31日 14時) (レス) id: 195d1979fa (このIDを非表示/違反報告)
かなえ(プロフ) - ああああ、、、、、、!!たまに居る占ツクの文才作者や、、、。ついに鬼滅で見つけた、、、。しかも支部によくいる文章も書けて絵も描ける系のひとや、、、。あなたみたいな人を見つけることが本気稀にあるから占ツクも捨てたもんじゃないなって思います。長文失礼。 (2020年1月18日 20時) (レス) id: 507f83f0de (このIDを非表示/違反報告)
わか(プロフ) - 葉月さん» わかります笑 時々すごく面白い作品を見つけた時すごくテンションあがりますよね笑 葉月さんにとってそれがこの話であってくれたなら幸いです^ ^ コメントありがとうございました! (2020年1月16日 21時) (レス) id: d2a45a75c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わか x他1人 | 作成日時:2020年1月3日 9時