暗闇の視線 ページ13
「眠れないのか」
「うん、まあ」
決まりが悪そうにAは呟いた。
あまりに長居は迷惑だから、明日は早く起きてここを出る予定なのだ。
「明日は早く出るからもう寝たほうがいい」
同じ事を今考えていた。
「うん、そうだよね。もう寝る」
「……」
Aがそう言ってみせるも、冨岡が彼女を見つめるのをやめる気配はない。
あまりに見つめられては寝られるものも寝られない。痺れを切らして声をかけようとした時、先に男が口を開いた。
「Aは……、縁談の話はないのか」
「え!」
思わず出た驚きの声に、慌ててAは口を押さえる。隣の部屋では鱗滝が寝ているのだ。予想外の声の大きさに、目の前の冨岡もあからさまに眉を潜めた。そのことに、すぐさま、今度は小声で謝罪をする。
「ご、ごめん」
「いや……」
先程の言葉は自分の聞き間違いだろうか?と、バクバクとうるさい心臓を宥めながらAは考えた。
だって、話の筋がめちゃくちゃすぎる。
「……Aには、縁談の話が来たりしないのか?」
「……」
聞き間違いではなかった。
再度同じ事を問われ、困惑する。
宥めようとしたうるさい鼓動も、治る気配は全くない。
「……え、縁談て、なんで?」
「去年、先生が言っていただろう。めでたい話が聞きたいと」
去年の話だ。それは。
なぜその時に聞かず今聞くのだ、此奴は。
一つの話をするのに時間差がありすぎると、Aは心の中でため息をついた。
縁談の話は、正直、ある。
しかし、今はそれを受けようと思っていなかった。理由は勿論今も自分を困惑させているこの男なのだが、それを言う勇気があるはずもない。
下手に嘘をつく必要はないだろうと、Aは正直に話すことにした。
「縁談は……、あるけど、受けるつもりはない」
「何故」
「え……」
そこまで深く聞かれるとは思っていなかった。今まで、互いの生息について深く問い合うことはなかったから。この男は今、私がどこに身を置いているかも知らないのだ。
どうしてそんな事を聞くのだろうか。
冨岡の意図を理解できず、Aは戸惑う。相変わらず、心臓はうるさい。
「何故受けない」
「何故って、それは……」
本当のことなど言えるわけがなかった。
Aはこの気持ちを墓まで持っていくつもりであった。
「他に想い人でもいるのか」
「……っ」
男の指摘にAは目を見開く。
そんな彼女の様子を、やはり冨岡は暗闇の中じっと見つめていた。その視線が煩わしくて仕方がない。
全てがバレてしまいそうで怖かった。
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めろん(プロフ) - 今まで読んだ全ての作品で1番良かったです。ここまで鬼滅の刃の世界観を崩さずに、作品を作れるのは本当に凄いです。作者様の鬼滅愛を感じました。良い作品を作ってくださってありがとうございます。本当に感動しました。 (2020年5月29日 0時) (レス) id: 81c5db83e3 (このIDを非表示/違反報告)
Hashida(プロフ) - 夢小説を読んでいてよく思うのは、(このキャラこんなこと言わないでしょ)というキャラ崩壊のガッカリ感で、よく萎えていたのですが、この作品は全くそんなことなくてとても面白かったです!もう1つの作品も大好きです!頑張ってください! (2020年2月6日 12時) (レス) id: 3c3060ecea (このIDを非表示/違反報告)
わか(プロフ) - かなえさん» 返信が遅れてしまってすみません。長文コメントありがとうございます笑 沢山の文字でとても嬉しいお言葉に感謝です笑 楽しんでいただけて良かったです^ ^ (2020年1月31日 14時) (レス) id: 195d1979fa (このIDを非表示/違反報告)
かなえ(プロフ) - ああああ、、、、、、!!たまに居る占ツクの文才作者や、、、。ついに鬼滅で見つけた、、、。しかも支部によくいる文章も書けて絵も描ける系のひとや、、、。あなたみたいな人を見つけることが本気稀にあるから占ツクも捨てたもんじゃないなって思います。長文失礼。 (2020年1月18日 20時) (レス) id: 507f83f0de (このIDを非表示/違反報告)
わか(プロフ) - 葉月さん» わかります笑 時々すごく面白い作品を見つけた時すごくテンションあがりますよね笑 葉月さんにとってそれがこの話であってくれたなら幸いです^ ^ コメントありがとうございました! (2020年1月16日 21時) (レス) id: d2a45a75c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わか x他1人 | 作成日時:2020年1月3日 9時