いつかの話。【約束のネバーランド】 【短編・中編集】

You are not my hero 5（レイ） ページ44

咄嗟にそいつを抱き寄せた。
腕の中で小刻みに震えている。

抱きしめられた事により、まるで糸が切れたように、Aは声を漏らし始めた。

「ひッ、ごめっ、ごめん、レイ」

息も上手く出来ないまま、途切れ途切れに謝ってくる。

「いいから、無理して喋んな」

背中をさすりながら俺は言った。

違う。謝るのは俺の方だ。
こいつが思い悩んでいる間、俺は自分の事しか考えていなかった。
やはり俺は、こいつの言う『正義のヒーロー』とは程遠い、ただの『一般人』でしかないのだ。

でも、それでも……。

この先、何があっても、こいつのそばに居たいと、泣き噦るAを見てそう思った。
そばに居て、守ってやりたい。
もう二度と、こんなに泣かせる事の無いように。

たとえ、『正義のヒーロー』にはなれなくても……。


しばらくして、Aは徐々に落ち着いてきた。
それを見計らって静かに体を離す。
顔を覗けば、もう泣き止んではいたが、目元と鼻がほんのり赤くなっていた。

「ごめん、ありがとうレイ」

少し恥ずかしがりながらAが呟く。
安堵して俺は笑った。

「いや、俺もごめん」
「うん」
「もう、絶対にあんな事しないから」
「うん」

ただ頷くA。
まるで小さい子を宥めているような感じがした。

「あ、レイ、もう一個いい？」

間をおいて、Aが聞いてきた。
それに俺は少し戸惑う。

「え、なに？」
「あの、お誕生日おめでとう」

恐る恐る、そう言われた。
驚いて目を見開く俺。
そんな俺にAは優しく笑いかける。

「私だけ言えてなかったから」

確かに、アンナ達に言われた時もAはその場に居なかった。
こいつが実は気にしてた事を知って、何やらこそばゆかった。

「……昨日だけどな」
「まだ日付変わってないかもしれないでしょ」

確実にそんな事はないと思うが、それは言わないでおいた。
時計のないこの場所では、確かめようもない。

「ありがとう」

か細い声でお礼を言った。
それを聞いてAは安心したように目を閉じ、俺の肩にもたれかかった。
しばらくして、安定したそいつの寝息が聞こえてきた。

それを聴きながら、俺もAの頭に軽くよりかかり、目を閉じる。

さっきの寝苦しさは、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。

重なる視線1（レイ）→←You are not my hero 4（レイ）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す