【npl】愛色図書館【短編集】

＊ ページ23

「……………………だって、お前は俺が埋めたから」
「あははははははははは！」
目の前にいるのは、数ヶ月前に俺が殺して埋めた人間だ。名前を、AAと言う。
彼女を殺した理由は、特に話すつもりはない。あんな忌々しい記憶、脳内から消してしまいたい。
「わたしはなんだろうね？ハッチさんの妄想や幻覚？それとも、土の中から蘇った死体？」
「……別になんでも良いよ」
彼女はAA。
俺は彼女を埋めたはずなのだ。埋めた日の夜の匂いも、埋めた時の土の感触も、彼女の血の匂いも、使ったスコップの感触も、全部全部全部覚えている。
なのに。なのに彼女は俺の目の前にいる！
目の前の彼女は何者なのか、なぜ俺の前に現れたのか、本当に俺は彼女を殺したのか。いや、もっと根本的な話をするのなら、彼女はそもそも存在していたのか。
幻覚か、幽霊か、妄想か、現実か。
どれが虚実か。どこまでが虚実か。
その全てを俺でもわかっていないのだ。
「ハッチさん、またわたしの死体、見に行く？」
彼女が現れた日から、俺の頭の中にはずっと彼女がいる。過去のある日々で笑っている彼女が、ぐちゃぐちゃの血塗れになった死体が、そして土と血がついたまま俺に笑いかける目の前の存在が！
それのどれが現実で、どれが妄想か、俺にはもうわからない。
「行かない」
「ふうん。確認すれば良いのにね」
「……いや、いい」
もし彼処に死体があったら、目の前の彼女は何になる？逆に彼処に彼女の死体がなければ、それでも彼女の存在は何と言えば良いんだ？
俺は真実を知るのが怖い。知りたくもないと思う。だからこのまま、事実をあやふやのまま、俺は心の安定を無視して、生活している。
罪が公になるのが先か、彼女が消えるのが先か、それとも俺が発狂するのが先か。
俺は本を閉じて、立ち上がった。
「ハッチさん、どこ行くの？」
「アイスクリーム、買ってくる」
「好きじゃないのに買うんだね」
ただの現実逃避として、財布だけ持って俺は外に出た。彼女は俺の部屋から出ない。それが何を意味するのか、はたまた何の意味がないのか、今の俺にはわからなかった。
俺はぼんやりと考える。何についてでもなく考える。そうすると浮かんでくるのは、彼女のことだけだ。
どうせ俺はアイスクリームを2個買ってくるだろう。
それを彼女が食べるのか、俺は知りたくもない。

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