【npl】愛色図書館【短編集】

仮面の下のコンプレックス【3】 ページ15

俺はAちゃんのマスクの下にある素顔を見たことがない。
恋人なのにおかしな話かもしれないけれど、Aちゃんは人前でマスクを外すことをとても嫌がるのだ。どんなに暑くても外さず、どんなに寝坊してもマスクは絶対につけてくる。ならば水分補給や食事はどうしているのかと聞いてみれば、「人が居ないところで、こっそりやります」とのことだった。
生きにくそうな子だな、というのは付き合う前からずっと思っていることだ。
少し世間からはずれた子で、他の人間よりも大きなコンプレックスを抱えていて、それが可愛いと俺なんかは思っているけれど、それは間違いなく生きていく上で障害になっていると思う。
だから、ずっと危なっかしいと思っていた。








「……あ、えっと、すみません。もう一度、お願いしてもいいですか？」
Aちゃんの母親から連絡が来たのは、Aちゃんと連絡が取れなくなってから三週間経った日のことだった。
Aちゃんからの音沙汰がなくなる前のやりとりは、別に変わったところはなかったと思う。
【新しい服、書いました。】
Aちゃんが新しい服を買ったと写真を送ってくれて、そしてそれに俺は「かわいいね」ってありきたりの本音を伝えた。
『かわいいね』
『今度のデートで来てほしいな』
彼女からの反応もおかしなところはなかったと思う。少なくとも俺は違和感を感じなかった。
【ありがとうございます。】
そしてそこから彼女からは何の連絡もこなくなった。こちらから何かメッセージを送っても、彼女からの反応は何もなかった。
『Aちゃん』
『次のデート、いつにしますか？』
『次はどこに行く？』
『色々と、だいじょうぶ？』
変にかまいすぎて彼女にうざがられることが嫌で、そんなに深刻に考えすぎないようにしていた俺に、まるで罰を与えるかのように、その連絡は来たのだ。




Aちゃんは、亡くなったそうだ。自分の意思で、死を選んだらしい。

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