私の近所は雄英高校 (ページ1)

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幼い頃ページ1

幼い頃、海の見える小さな街に住んでいた。
両親も優しく、そこそこ幸せだったと思う。
優しくて綺麗で大好きなママ。
カッコ良くて強くて大好きなパパ。
そう、大好きな人達だった。
近所のおばさんも、ちょっと怖いけど可愛い犬のペディーも、向かいに住んでるメイクが濃くて優しいお姉さんも、みんな大好きな人達だった。
窓から見える海も、川に架かる大きな橋も、自分の住んでいるこの街も、大好きだった。

父と母は離婚した。
幼かった私は、二人がなぜ離ればなれになって暮らすのか、自分がなぜパパと二人きりで暮らすのか、なぜママに会えないのか、何も分からなかった。
ある朝、起きたときにママは私におはようと言ってくれなかった。
ママはいなくなっていた。
急いでパパを起こしに行くと、パパは気だるげに｢その内帰ってくるから｣と言って、布団にもぐった。

その日の夕食はレストランで食べた。
パパはなぜかずっと黙っていた。
ハンバーグが美味しかった。
私が食後のデザートを食べ始めたとき、パパはやっと口を開いた。
｢……美味しい？｣
私は満面の笑みで｢うん！｣と頷いた。
パパは微笑んだ。
｢……ママのハンバーグとどっちが美味しい？｣
私は悩んだ。
数瞬の後に、私はママのハンバーグが美味しいと答えた。
パパは困ったように笑った。
｢じゃあ、これからはパパがママのよりも美味しいハンバーグ作るから……ママ、いなくてもいい？｣
｢えー、やだ。パパの料理おいしくないー。｣
｢これから美味しくなるように練習するから！｣
パパと私は笑った。
パパは一口水を飲んだ。
｢アイ……。お引っ越ししようか。｣
｢えっなんで？｣
私は心底驚き、目を丸くした。
｢ママがパパ達と離れて暮らしたいんだって。｣
｢なんで？｣
｢それはね……アイが個性を持ってるから。｣
その頃の私にはコセイとムコセイの違いもよく分かっていなかった。
まだ、小学校にも入学していない、4歳の頃の話だ。

私たちは引っ越すことになった。
出立の日、おばさんはお菓子を渡してくれた。
お姉さんは号泣していて、なぜか黒い涙を流していた。ちょっと怖かった。
ペディーにも最後の握手をして、頭を撫でてあげた。

ママは来なかった。

｢じゃあね、アイちゃん、元気でね。｣
お姉さんは黒い涙を流しながら私を抱きしめてくれた。
｢また、雄英高校で会おうね……｣
私が車に乗る直前、お姉さんはそう言ったように聞こえた。