【歌い手】頑張りすぎな姉の話【天月】 (ページ26)

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そこからまふくんの家に着くまでは沈黙が続いた。
そらるさんから何か言葉が発されることも、僕が何かを言うことも無かった。

姉を疑う彼を責めたい。

血の繋がりのない自分を弟として可愛がってくれる姉はとても優しく、そして努力家だと。
文句こそあれ姉を責める言葉なんて僕には浮かばない。

仮に、もし本当に姉が人を…。
だとしても、僕らの友人を傷付けるなんてありえない。

だから急いで帰る必要なんてないんだ。

状況を整理するために帰るのは得策だけれど、そらるさんが失うものなんてない。
焦る必要なんてない。

……そう、言いたいのに。

言葉は喉元まですら上がってこない。
頭の中で整理がつかず、ただ前を歩く彼を追いかけることしか出来ない。

人の痛々しい姿というのは、それ程までに大きな物だった。

ほどなくして友人の住むマンションに着く。
先程姉を預けて別れた玄関先だ。
オートロックの前で部屋番号を押してチャイムを鳴らす。

感覚2秒。

プツ、という音と共に聞こえてきたのはよく知る友人、まふまふの元気な声だった。

「おかえりなさい、早いね？」

呑気な、けれど怪我を見て手当をしてくれた彼も多少の焦りがあるのか、いつもよりは低めの声。

その声を聞いて、そらるさんが先程まで放っていた緊迫感を解いた。
ふぅ、と一息ついてオートロックを見る。

「ちょっと整理したいことが出来た。開けて。」

いつもと変わらない、少し気だるげな声で言うそらるさん。
もう彼からは焦りや悲しみといった感情は感じなかった。

「ほら、天月も。行くぞ。」

振り向いて優しく声をかけてくれる。

オートロックが開くと同時にまふくんの住む階層のみボタンが押された状態で僕らを待っているエレベーター。

乗り込むまでも、乗り込んでからも、まふくんが部屋を開けてくれるまでも。

そらるさんから姉について何か言われることは無かった。