【歌い手】頑張りすぎな姉の話【天月】 (ページ19)

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「なんでッッ！！」

大きくなる声。肩を震わせる姉。

自分の顔が、表情が。
とても人に見せられるものでは無いものだろうと自覚する。

それくらいに怒りを覚え、不安を感じ、そして絶望してしまった。

「落ち着け天月。」

「あまちゃん？どうしたの…？」

甘えさせてくれたそらるさん。
姉を助けてくれたまふくん。
ふたりの声は耳に入るのに、理解ができない。
世界の音が遠のいていく。

「あの家は駄目だ。だめなんだ。
あの人が支配するあの空間に行くなんて、そんな、だって……」

「落ち着けって！！」

肩を強く握られ、強引に顔を向けられればそらるさんと目が合う。

しばらくの静寂。

その静けさを破ったのは姉だった。

「あーぇ、そにぁ、えーお…？」

僕が悲しんでいること、怒っていることを感じ取った姉は、どうにか僕を和ませようと声をかけてくれる。
伺うように。優しい声色で紡がれる意味の無い言葉。

「姉ちゃん……」

「おたぁ、さににゆ……」

「わかんない……何も、わかんないよ……」

必死に何かを伝えてくれる姉の言葉は、それでもやっぱり伝わらなくて。

けれど、【言語】というものを先ず理解できない姉が音に違いをつけてくれているだけで、必死に何かを伝えようとしていることだけはわかる。

なのに、それでも姉の言葉は伝わらない。

「わかん、ない…よ……。」

姉がどうして実家に行ったのかも、
何を伝えたいのかも、
何を考えているのかも、
なにも。

何も僕には分からなかった。