【歌い手】頑張りすぎな姉の話【天月】 (ページ16)

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まふまふside

「なんで洗ってないんですか、止血してない時点でもしかしたらって思ってましたけど！！」

つい焦って声が大きくなる。
ガラス片を傷口に入れたまま、しかも止血せずに靴下履いてそのまま歩いてた彼女は、いったい何を考えているのか。

ふと、そこで違和感に気付く。

そもそも、どうして足にガラス片が。
しかもこんなに大きな、深い傷があるのだろう。

止血もままならず、どうにかその状況から抜け出した可能性もあるのだろうか。
意思の疎通が上手く取れない僕では確かめようがなかった。

「とりあえず、洗いましょう。」

大きな声を出してしまったからか怯えた顔をさせてしまった。
整った顔が歪んでいて、すこし綺麗だな、なんて思ってしまう。

なるべく優しい声で話しかけながら、傷口をそっと敷いていたタオルで覆い、そのまま抱き上げる。

「、？、！？！」

「あわわ、暴れないで。足、そのまま歩くよりいいですよね？」

足を見つめながら咎めるように言えば大人しくなる。
伝わったのだろうか、それともここで暴れるのは危ないと察したのだろうか。
とにかく大人しくしてくれたので、そのままお風呂場へと向かった。

途中、扉の空いていた作業部屋を通る際にマイクが目に入ったのか、お姉さんがあーあーあーとメロディーを紡ぐ。

「歌、好きなんですか？」

「？」

「伝わらないですよね。……〜〜♪」

「！」

お姉さんが紡いだ音をそのままなぞり、即興で曲を口ずさむ。
鼻歌だけど、お姉さんの表情は一気に明るくなった。

「そっか、これなら言語なんて関係ないですもんね。」

腕の中で笑うお姉さんに嬉しくなる。

お風呂場は浴室乾燥機を掛けていたから乾いていた。
椅子にお姉さんを座らせ、バスタブにお姉さんの足をあげる。

ざああ、とシャワーを出して温度を調整していたら、お姉さんは自分でスカートを少し捲りあげ濡れないようにしてくれた。

「痛いかもしれないけど、我慢してくださいね。」

さっきも言ったような言葉を投げ、水圧を弱くしたシャワーで傷を洗う。
スカートにシワができるくらい握り締めた手。
それだけでどれだけ痛いかが伝わってくる。