We kiss....

49.mg ページ49

最近、阿部ちゃんが楽しそうだ。


佐久間くんにフラれた日を境に、苦しそうな表情をしなくなった。


あの日は絶望に満ちていて、俺がそこから救ってあげようと思っていたのに。


何が彼をそうさせているかはわからないけれど、とにかく笑顔が増えたように思う。


俺の苦労は一体何だったのだろう。


みんなの感情を読んで、作戦練って実行に移したあの苦労は。


「岩本くん、何か知ってます？」


「さぁな。」


「教えてくれないんですか？盗聴のこと、阿部ちゃんにバラされたくないですよね。自分の置かれている立場を弁えたらどうっすか。」


「目黒、もう阿部のことは諦めろ。俺ももうこんなことはやめる。だからお前に教えられる情報も無くなる。」


「やめたところで、岩本くんが盗聴をしていた事実は変わりません。教えてくれないならバラす、この取引は継続です。」


「お前、阿部のことが好きなんだろ。大切なんだろ。だったら邪魔しないでやれよ。」


「邪魔？やっぱり何か知ってるんですね。」


「阿部は新しい居場所を見つけたんだよ。絶対に否定されない、無償の愛を嫌でも注がれる安全地帯を。そこに愛する人は居ないけど、それを差し引いても阿部にとって居心地の良い場所なんだよ。」


「俺が馬鹿なだけですか？それとも岩本くんの説明が下手すぎるんですか？全く意味がわかりません。」


「お前、これ以上阿部に何かしたら痛い目見るぞ。俺達メンバーも黙ってないし、今阿部の傍に居る奴は阿部の為になら何をしでかすかわかったもんじゃない。」


「そんな危険人物に阿部ちゃんを託すんですか？事態が拗れすぎて頭おかしくなったんですか？」


「....俺にとっては、お前も阿部と同じくらい大切なんだよ。そこに恋愛感情は無いけど、それでも大切なメンバーであることに変わりは無い。だから極力、お前にも傷ついて欲しくないんだよ。」


「ますます意味がわからない。....帰ります。気が向いたらその阿部ちゃんの新しい居場所とやら、教えてください。」


岩本くんの家を出て、そのまま阿部ちゃんのところへと向かう。


だけど今日オフのはずの阿部ちゃんは家に居なくて、メールも電話も全く意味をなさない。


諦めて佐久間くんに電話をかけたら、『最近の阿部ちゃんはなんだか幸せそう、これで俺も諦めがつくよ』だなんて。


どいつもこいつも、どんだけ軽い感情で阿部ちゃんに近付いていたんだ。


虚しさにこみ上げてくる熱い何かを無視して、帰路に着いた。

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