其の弍 喫茶店 ページ3
「やっぱり厳しいな…」
「そうですね…やはり僕達だけでは難しそうです」
数時間、周囲の人に聞き込みをしても、目ぼしい情報は得られなかった三人は、雰囲気の良い喫茶店に入り項垂れていた。
その様子が気に掛かったのだろう。給仕がこちらを怪訝そうな顔で見ている。
視線は感じるが、落ち込んだ気分はどうしようもなかった。
溜息をつき、諦めて帰ろうと残りの珈琲を呷ったとき、澄んだドアベルの音が客の入店を知らせた。
その客は給仕と親しいようで、何やら話をしていた。
どうやら自分達の事を話しているらしい。
給仕曰く、客は探偵で、それならば困っている人の悩み事を聞いてやれ。
探偵はそんな職業ではない。客もそう思ったのだろう。どもりながらも何か言い返そうとしていたが、彼女に凄まれて情けない悲鳴を上げていた。
声を掛けられそちらを向く。
客は青年、少年だろうか。あまり歳は離れていないように見える。白い髪に斜めに切られた特徴的な前髪。黒いサスペンダーとネクタイに白いシャツ、長いベルトを遊ばせた、全身モノトーンの細身の男だった。
気に掛けて貰った以上無碍にすることは出来ない。もしかしたら、有益な情報を得られるやも、と彼に事情を話した。
長らく離れ離れになっていた姉を探している。長い茶髪、紫色の瞳、女性にしては高い長身。
あの一瞬で、我ながらよく記憶していると、一郎は自賛する。
特徴を話し終え、探偵に目を向けると、何やら考え込んでいる様子だった。
声を掛けると、彼は慌てたように謝罪するが、やはり気に掛かる事があるのだろう。表情は少し曇っていた。
何か思い当たる事があるのか、と問い掛けた時、不意にドアベルの音が響くと共に誰かの名が呼ばれる。
其れは探偵の名のようで、彼は慌てたように席を立った。そして思い出したようにこちらを振り返り、
「もし、どうしても見つからない事があれば、武装探偵社に」
と付け足した。
“武装探偵社”
聞いたことのない探偵社だが、随分と物騒な社名だ、と一郎は探偵の去った方向を見ながら考え込んだ。
「何かあれば探偵社を頼るといい。きっと、お客様方の依頼を達成してくださるでしょう」
とは、店を出る前にマスターから聞いた話だ。
なんでも、武装探偵社は喫茶店が内接しているビルの上階にあるのだそう。
其の日は特に収穫の無いまま帰路についた。
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作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時