9 ページ9
・
「ホークス、私はデリカシーの無い人間らしい」
「また何かあったんですか？」
「ついさっき、高校時代のクラスメートと偶然会って話した。だがソイツの香水があまりにもキツかったから『鼻が捻じ曲がりそうだから風呂に入ってこい』と言ったんだ。そしたら『やっぱりアンタって昔からデリカシーが無いわね！ 今後二度と会わないことを願うわ！』と怒鳴られた挙句平手打ちをくらった」
「物真似上手いっすね」
「嬉しくない」
「何がダメだったと思う？」と聞くと「事実を言っただけなんですから、貴方に非はありませんよ」と返ってくる。
そうだよな、事実を言っただけなのだから私は悪くない……よな？
一人うんうんと頷いていると、ホークスが「これで冷やしてください」と袋に入った氷を渡してくる。どこから用意したのだと聞いたら、店にある物を勝手に使って作ったとのこと。
訴えられたらどうする気だ、とは思いながらも貰った氷袋を紅葉に当てる。
ヒンヤリしていて少しだけ気持ちいい……。
この男が私を否定したことなど今の今まで一度も無い。
こういう話をすれば大抵の人間は「それは君が悪い」と顔を顰める。相手の気を使えとか、もっと言葉を選べとか、注意ばっかり。いつも私は悪者だ。
私が本当に欲しかった言葉をくれる人間などいなかった。
けれどもコイツは違う。
寄り添って、慰めて、決して私を否定しない。まるで保育園の先生みたいだ。何もかもを包み込む温かな声は心を落ち着かせる。
だが、不安になる。
「……こうして君に肯定され続けていると、時々怖くなる」
ポツリと呟く。頬に当てた氷がカラッと音を立てた。
ホークスの顔を見やれば、石像みたいに身体をピタリと止めている。表情自体は笑っている、しかしその目には大きな動揺があった。何がダメだった、と一人グルグル考えているようだった。
ホークスは「ご、ごめんなさい……怖がらせる、つもりはなかったんです」といつにも増して焦っている。
そんな彼を落ち着かせるべく「別に、君自身を怖いと思っているわけではない」と伝えれば、あからさまにホッと安堵の息を吐いた。それに反して私は不安の籠った溜息を吐いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 46人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ガシヤマ(プロフ) - サンドレラ2世さん» コメントありがとうございます！ 夢主ちゃんの心情表現は丁寧に細かく書くことを心がけました。読んでいただきありがとうございます。 (3月13日 20時) (
レス) id: d005014dc4 (このIDを非表示/違反報告)
サンドレラ2世 - 読んでて凄くドキドキしました。夢主の心情が鮮やかに描かれていてよかったです (3月13日 8時) (レス) @page31 id: 0ee11eb3e3 (このIDを非表示/違反報告)
ガシヤマ(プロフ) - ひとやさん» コメントありがとうございます！ 夢主ちゃんには幸せになってもらいたいところですが……ホークスと相思相愛ってわけではないんですよねぇ。でも、私はこういうの大好きです。 (3月13日 3時) (レス) @page30 id: d005014dc4 (このIDを非表示/違反報告)
ひとや(プロフ) - 最後、タイトルをひっくり返したような文章で終わってあるのが本当天才かと思いました……夢主ちゃんのようなキャラも個人的に新鮮で、先の展開に加え、それに対して夢主ちゃんがどうなるのかまでとても気になりました！素敵な作品をありがとうございます！ (3月13日 3時) (レス) id: 47f18479c2 (このIDを非表示/違反報告)
ガシヤマ(プロフ) - サンドレラ2世さん» コメントありがとうございます！ 心温かいコメントのおかげで執筆活動が捗ります、本当にありがとうございます！ 皆さんから愛される小説を書けるよう精進します。 (3月11日 22時) (レス) id: d005014dc4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ガシヤマ x他1人 | 作成日時：2024年3月1日 23時
