戦略的忘却【約ネバ】

・ ページ3

・


ノーマンだろうかと視線を向けた先には、２つに結んだ金髪に、持ち主そっくりののほほんとした仔兎のぬいぐるみ。
きょろきょろと不安そうに辺りを見回すコニーだった。そして、そんなコニー目掛けて走ってくるノーマン。
全てを見通すようなノーマンの青い瞳が一瞬だがこちらを向いた気がして、私は息を止める。
そして、僅かな逡巡の後に腰掛けていた枝から飛び降りた。
突如現れた私に驚くコニーと、いつもの柔和な微笑みを崩さないノーマン。私の口角がつり上がる。
驚いて目をぱりくりとさせているコニーを抱き上げ、走り出す。そこでようやくノーマンの接近に気付いたコニーに、私は走る速度を上げた。
きゃあとコニーの上げた悲鳴に喜色が溢れているのに気付き、私の口から笑い声が響く。

木の上にいる私を捕まえるのは難しい。ならば、木の上にいる私の前でコニーを追いかけて私をおびき出せばいい。体感したことのない速度にはしゃぐコニーを見て頬を緩める、私とノーマン。
はしゃげは疲れる。逃げ続けてはしゃぎ疲れたコニーに無理をさせないために、私は捕まると踏んだ訳だ。わかっていれどそうするしかない、ノーマンらしいやり方。
力強く地を蹴り、岩を跳び越える。楽しげなコニーの叫び声に、心がくすぐられるような思いがした。
戦略でも構わない、コニーがこんなに喜んでくれているのだから。

「また捕まっちゃった〜。」
「ラスト１人で１０分持ちこたえたぞ、新記録じゃないか。」
悔しそうに芝生に倒れこむエマを、興味がなさそうな態度をとりつつも時間を見ていたレイがフォローする。
「くやし〜、なんで！？ なんでノーマンあんなに強いの！？ 私かけっこじゃ負けたことないのに、鬼ごっこじゃ勝てたことないよ！」
勢いよく起き上がり、いつもの柔和な微笑みを浮かべてトーマとラニオンの相手をするノーマンを不思議そうに見つめるエマ。
「問題。現状ノーマンにあってエマにないもの、なーんだ？」
台詞こそふざけた調子だが声色はいつも通りで、そこが却ってなんだか面白い。現状、とつけているのがヒントになるだろう、場合によってはノーマンが無くす可能性もあり、今後次第でエマが獲得することもできる。
エマは頭がいい。家族の誰かが里親に引き取られる日は、私が毎回みんなと遊ぶことを察することができる。
「え！？ いっぱいありすぎて……。」と言うエマはぴんときていないようだったので、はいはい、と手を上げてみる。
「戦略、じゃないかな？」


・

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す