人の心地よさを、知らなかったんだ。*1 [N.K] (ページ14)

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「遅えよ、何やってたんだよ。」

「すみません、ちょっと揉めてて」

「揉めてたぁ？」

「いわゆる、痴話喧嘩で。流石あの雰囲気には入れないですよ。」

確かにあそこはあまり人は来ないけども。職場で喧嘩は社会人としてはダメすよねーって。

そしたら妙に納得した顔で、そりゃご苦労だと言われて。

思ったよりすんなり許されたと思えば

先輩もその手には弱いらしく。
早々に会話を諦めた心の内が見える。

…全然そうには見えないんだけど。
スポーツやってますって感じするしモテないわけでもないだろうに。

曰く学生の頃から彼女、つまり今の奥さんにしか目がいかないらしく笑

普段の仕事ぶりから愛妻家気質を知れば結構なギャップで。
奥さんの尻に敷かれてる所も、いつもは見ない先輩でちょっと気になったりして。

……まあとにかく被害を受ける事もなく。無罪放免、バンザイ。

「んで？それはそれとして、お前明日の準備できてんのか？」

「え？あ、一応。◻◻社ですよね？契約更新の。」

ふんふん頷いていたのに、ピタリと止まってこちらを見るからなにかと思えば、

「…ついでに他のもどうにか取り付けてこい。」

って、簡単に仰いますけど。

“他の”ねぇ。

「……先輩元々ここ担当でしたよね？資料下さい。」

「ん？分かった、すぐ送る。」

ちゃちゃっとパソコンを触ったと思ったらすぐに送られて来た。

…結構アバウトそうなのに、几帳面に必要なことだけきっちりまとめてあんの。
やっぱ仕事できるのな。

「…約束だけでも取り付けられたら飯奢ってやるよ。」

「じゃ、駅前の立ち食い……ステーキ屋でお願いします。笑」

そういったら、蕎麦じゃねぇのかよ生意気なって小突かれた。