-平穏の終わり- ページ9
あれから特に元の世界に戻る情報は入らず。代わりに仕事に慣れてきたと実感した頃、事は起きた。
「竜だ……城に大きな竜が攻めてきたぞ！」
近くはないが遠くもない場所にある、この国……透魔王国の城に、巨大な竜が現れたのだ。
それは、この屋敷からでもよく見えるほどにデカくて、城に覆いかぶさるように這っていた。
「ミコト様、城内から姿の見えない敵が城下の人々に襲いかかっているとご報告が……！」
「……いずれ此方にも攻め込むかもしれません。町の人たちに今すぐ逃げるようお知らせしてください」
ミコト様たちは対応に追われて忙しそうだ。
私は何をするべきか分からず、いつも通りにカムイ様たちの面倒を見ることにした。というより、先ほどから泣き止まないのを頑張って宥めるしかないのが現状である。
「……やっぱ、本能的に察してるのかなぁ」
子供って、こういうのに敏感だって聞くし。
困りながら揺すっていると、先輩使用人が険しい表情で入室してきた。
「イオリ。カムイ様たちの面倒は私が見るから、貴女も逃亡の準備をしなさい。持っていくものは他の子が教えてくれると思うから、ちゃんと聞くこと。いいわね？」
「わかりました」
抱いていたカムイ様を渡して自室に戻ると、同室の使用人があれこれと教えてくれた。おかげさまでスムーズに鞄に荷物を入れることができて、脱出の準備は万端である。
しっかし、臨機応変に対応できる有能な人が多い職場で最高だなぁ！元の世界でも就職したいぐらいだわ。
ま、そりゃ無理な話だけどね、ガハハ！……はぁ。
(本当、戦いとか争いとか二次元で十分だっつーの)
戦争シミュレーションゲームは好んでやっていた口だが、だからこそ戦争の恐ろしさ、悲しさは嫌というほど識っている。故にこの状況は控えめに言って糞だと思う。
というか、保護された先で争いが起こるとかやってらんないなー、って思うのは当然だろう。
(時世に気が回らないのは失敗だった。けど、子供の見た目でそういうの聞きまわるのは怪しすぎてアウトだし……難しいところだなぁ)
ま、後悔しても遅い。今回は潔く諦めて次に生かそう。
一人反省会を終わらせ、先輩使用人に準備が終わったと報告するために立ちあがった。
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