Carat 9【ストーカー&不安症】 ページ42
Side GREEN
「そろそろ、教えてくれてもいいんじゃない？」
「何が？」
「……北斗が抱えているもの。」
どんどんどんどん痩せていく北斗。
どんどんどんどんクマを色濃くする北斗。
声を掛ければ不自然に驚き怯える北斗。
声を掛ければ必死に笑顔を作る北斗。
本当の北斗が見えなくなってから
もう1ヶ月ぐらいになろうとしていた。
その日は、いつもより苦しそうで、
雑誌撮影の仕事を終えて、楽屋に戻り、
その扉を締めた瞬間に、しゃがみ込み、
北斗は遂に過呼吸に陥ってしまった。
「はぁっ、……はぁ、はぁっ、……ﾊｧｯ
な、んでも、無い、からっ……はぁッハァッ」
「…何でも無かったらこんなことにならねぇよ」
高地がため息をつく。
俺はとにかくゆっくり呼吸をするように声をかけ続けた。
「人に、…見られるの、……怖、かった…」
「……大丈夫だよ、今、俺らしかいないからね」
震えている北斗に、なんの根拠もない大丈夫を咄嗟に口にする。
皆もとても戸惑っていたみたいだった。
「……もう大丈夫？」
「うん、ごめんね。…大丈夫」
呼吸は落ち着いてきたみたいで北斗は力無く笑った。
「…病院、…とか、行く？」
「……それはやだ。…負けてる気がする」
樹が声をかけたけど、北斗はそう言って立ち上がった。
まだ顔色悪いし、少し足取りがフラフラしているけど。
「負けるって何に？…誰に？」
「…ごめん。俺、もう帰るね。流石にしんどい」
「え、あぁ、…いや、でも、一人で平気？電車でしょ？」
戸惑ってばかりの俺は気の利いたことは聞けなくて。
北斗はそそくさと荷物をまとめて、着替えを始める。
話しかけるなオーラ全開で、俺らもとりあえず着替えを始めることに。
「…なんか、見えないものでも見えてんの？」
「こんな時にまで厨ニ病みたいなこと言うなよ、笑」
「でも、だって………
負けるって、何か、幻覚でも見えてるんじゃ…」
きょもと高地が小声で話す。
「ほんとに大丈夫？ほくちゃん、
せめてマネージャーに送ってもらったら？」
「ううん。寄りたいとこあるから。」
「…そっか、無理しちゃだめだよ」
ジェシーでも引き止められないなら仕方ない。
………キャップを深く被った北斗の背中を
俺達はただただ黙って見送った。
普段キャップなんて被ることの無かった彼に、
何が起きているのかも知らずに。
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作者名：あーちゃん
| 作成日時：2020年6月12日 16時
