【d!】散逸スプートニク【短編集】 (ページ8)

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アンタにゃ早い/syp ページ8

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取り返し、つかへんくなる

この人、子供っぽすぎるんじゃあないか。私にも吸わせてとねだる彼女を宥めては溜め息混じりの紫煙を吐きだす。

「アンタにはまだ早いっすよ」

そう言う度に唇を尖らせては、ケチだのショッピさんだけずるいですだのと彼女はぶーぶー文句を垂れる。彼女よりほんの数ヵ月早く生まれただけの俺は偉そうに先輩風吹かしてこの一見面倒そうな女を、心底可愛がっている。ただ愛情が表に出にくいだけだ。
うん、多分そうやねん。

「ショッピさんは、なんでそんな私に煙草吸わせたくないんですか」

「アンタ、俺に吸いたい吸いたい言う割りには自分で買うとか他の人にねだるとかせぇへんやん」

うっ、とわざとらしくうめく彼女は痛いところを突かれたと顔に書いているようで分かりやすい。これだからこの娘をからかうのは楽しいのだ。

それはさておいて、俺が彼女に煙草を吸わせたくない理由を紹介しよう。勿論、守秘義務が生じるが。

ひとつ。床に胡座かいて座ってる俺の足元にちょこんと乗っかるAの顔にかかる煙でむせてたり、意地悪したときに膨れながら俺の胸にもたれかかってそのまま寝落ちしたりするのがめちゃくちゃ可愛いから。

ふたつ。もしAが煙草を気に入って、他の銘柄に興味を持って、そうしてAの肺が主流煙で真っ黒になるのがどうしても許せないから。俺の副流煙だけ吸っとけとか思ってまう。

他にも色々あるけどスッ飛ばしてみっつ。
煙を吐くAが俺より大人になってしまったとき、どこか遠くへいってしまったり、こちら側へ来てしまうことが怖いから。

俺みたいな裏の人間は、本来こんなに純な、それこそ太陽みたいな子に関わってはいけないと思っていたのに。いつの間にか俺の後ろをひょこひょこついてきたAをどうしても突き放せなかった俺の弱さを少し埋めるための自己満足の結果が、恒例となったこのやり取りだ。

「Aが大人になるんは、いつやろなぁ」

もう大人です、と頬を膨らませるAの肺は、まだ俺色。