ルージュ・サンタマリア/tntn ページ7
▽
ハロー、ハロー！
君たちは、血濡れの幽霊船の話を聞いたことがあるかい？ないって？あはは、そりゃあそうだ！これは俺が新しく描き下ろした最高傑作だからな！心して聞けよ、今回のはなんと……
＊＊
「静かだね、今日」
「……せやな。冬の海って、こんなもんなんかな」
「さあ。私、あんまり海は好きじゃないもの」
＿＿小さく笑って、手を合わせる。最早これは、毎年恒例の行事となってしまっている。
昔々、ホラ吹きと罵られたとある少年がいた。港町からこの田舎の辺境へ越してきた彼は、毎日毎日壮大な物語が記された手作りの紙芝居を持って街を歩いては、皆から煙たがられていた。煩い、そんな夢物語あるはずがない、エトセトラエトセトラ。後は安易に想像のつく話だろう。
しかし、そんな少年の話を真摯に聞いていた少女が、一人いた。名をA、という。少年とは同じ年で、いつも少年の話を心待ちにしていた。そして、密かに少年の事を想っていた。
「あいつも、馬鹿だよねえ……ほんとに、幽霊船を探しに行っちゃったんだ」
「……」
「ねえ、これじゃだめ？血濡れの幽霊船。新しい大陸を見つけるためには、少し小ぶりかもしれないけれど」
そう言ってAは、少年の墓前に小さな船の模型を置いた。真っ赤なルージュを塗りたくった、真っ赤な小舟。所々Aの指紋がついていて、不細工なそれ。
それでもAは嬉しそうに笑って、涙を流していた。何がそんなにAを動かすのかは分からない。引っ込み思案で、どちらかと言えば対人関係にも積極的ではないAが、周りからやっかまれようとも、少年といた理由。どうしてそこまで、少年に惹かれていたのか。
「……そろそろ行くで。あんま潮風に当たったら、風邪引くやろ」
「うん、そうだね。行こう」
とんちは優しいね、なんて言って笑うAの肩に手を置いて、墓前を離れる。昔から片思いを続けてきたAと結ばれたものの、結ばれた気が微塵もしないのは、どうしてか。
彼女の心を盗んだ幽霊が、恨めしくて仕方がない。この手で血濡れにしてしまえたら。何度そう願ったか。
海の底に沈んだ幽霊船は、こちらを嘲笑うように、冬の光を受けて輝いていた。
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作者名：トクメイキボウと莇野 x他1人 | 作成日時：2018年12月29日 1時
