黄昏時の略奪/gr ページ5
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ししどに濡れたコートの裾を、雑巾を絞るようにして水気を取る。随分と雨に振られてしまったのだ、と今更ながらに事の重大さを理解した。午後五時。
凍てつく寒空と北風が酷く主張するこの時期のこの時間帯だ、このままでいれば風邪のひとつやふたつ、簡単に引いてしまう。そんな単純な懸念すら頭に浮かばないほど、頭はクリアになっていた。
「おにーさん、どうされましたか？」
打ちひしがれた心の融解を試みたのは、なんとまだ年端も行かないような幼い少女。本来であれば自分は子供に怯えられるのだけれど、どうしてかこの少女は、臆することをせずに淡々と自分を見上げている。その足にはかわいらしい、半透明のピンクの長靴。慣れない小さな手で傘を持っていた。
「いや、少し雨に濡れてしまってな……君こそ、こんな時間に出歩いてどうしたんだ？」
「あ、えっと。わたしはお使いに行ってて、ここはわたしの家なの」
家。そう言われて見上げてみれば、「木嶋商店」の文字。少女の傘にぶら下がる名札は、「木嶋A」。なるほど、この店の娘らしい。
寒いでしょ、と中へ入れてくれようとしたものの、流石にこの水の滴る状態で店へは入れない。大丈夫だ、と少女に告げれば、「ちょっと待ってて！」と中へ入ってしまった。
「おにーさん、よかったら、これ！」
「傘……か？」
「うん、そう！Aの傘！おにーさんにはちっちゃいかもしれないけど、無いよりマシでしょ？」
「そうだが、しかし……」
君はどうするんだ、と言いかけるが、その声は屈託もない少女の笑顔にかき消されてしまう。少女はにこり、と効果音のつきそうなくらい満面の笑みを浮かべて、かわいらしい鈴の音のような声を響かせて言った。
「おにーさんが、また来てくれたらいいんだよ！」
その一言に礼だけ告げる。不思議と、雨に振られて重たかったはずの心情は弾んでいた。
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作者名：トクメイキボウと莇野 x他1人 | 作成日時：2018年12月29日 1時
