Crap、幕開けの狼煙/zm ページ1
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ふわり、風に乗って揺れる。
息を殺して潜む、というのは思ったよりも難解なことなのだと、私は今この身を持って体感した。まだ比較的寒い季節ではない筈なのに夜風は冷たく、舞っては頬を掠める髪はすっかり土埃の特有の香りが染み付いていた。
声を上げることは許されない。けれど、夜闇の静寂と緊迫しきった空気に酔うのは躊躇われて、何かしらのアクションを起こそうと、私の腹に腕を回す、私の髪よりも土埃の香りが際立っている男の顔を一瞥した。
普段からフードを深めに被り、顔色が伺えない男であったが、寧ろ夜闇ではその顔は際立つ物なのだと、初めて知った。
はっきりとした、殺意に満ちた瞳。
「……動くで」
囁きかけるように、小鳥の囀りのように、小さく。独り言を零す小鳥のようなか細い声で呟かれたその言葉を皮切りに、男は大きく地を蹴った。身に纏うフレアスカートの襞が膨らんで、それを抑えるように、男の手が私の脚に伸びた。姫抱きで抱え込まれた体は多少なりとも負担なのか、然程の飛距離を飛び上がることはしなかった。�犧廼��瓩覆匹秘陲錣譴訝砲任△辰燭�、人一人抱えた状態というのはやはり相当な負担だろう。何せ、両手が使えない状態なのだから。
「ゾム、やっぱり私は置いて、」
「ここまで来て何言うとんねん。A置いて俺だけ逃げたら、ただただ罪人の汚名背負うだけやろ」
「でも、私を抱えたままじゃ追い付かれるのは直だわ……！国境まであと……ンンッ」
黙れ。
その意味を示すように、ゾムは私の口元に手を当てる。動きも静止して、再び息を殺した。酸欠で私の目の縁に滲みだす涙を見てか否か、そっと手を離す。口元が急に冷たくなって、思わず息を殺す事を忘れそうになった。もう何が何だかわからない、パニック状態で錯乱しそうで。肩で息をするように、声を押し殺して静かに泣いた。ゾムが気付いていたのかは知らない。ただ、私の泣き顔へ、彼の視線が刺さることは一度もなかった。
フードから溢れ出た、アッシュブラウンの長髪が彼の襟元で揺れる。その先に光るのは、翡翠の瞳。獲物を狩り殺すような鋭い、殺意を帯びた瞳で思い出す。私達の愛の逃避行は命懸けなのだと。自身の我儘だけで泣き出した自分を恥じる。涙を拭い去るように瞬きをしたのと同時に、彼はもう一度地を蹴る。
深夜二時、密かなる王族と軍人の逃避行。
BGMは銃声、感動のエンディングは夜明けまでに訪れるのだろうか。
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作者名：トクメイキボウと莇野 x他1人 | 作成日時：2018年12月29日 1時
