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「何の、ごめん、なの…」
「抱き締めてごめん」
「何で、抱き締めてるの…」
「抱き締めたくなったから」
ぎゅっと力強く、だけど優しい腕の力に、涙が一層溢れてくる。
「目黒くん、彼女、いる、じゃん…」
「…………」
否定も、肯定もしない。
これは彼なりの優しさ？
それとも、別の意味がある？
考えなくちゃ。
でも。
頭がくらくらする。
「わたしの、視線、痛いんでしょ…っ」
「………痛いよ、」
苦しそうな、声がした。
「……っ、見つめられると、どうにかなりそうだ…」
「っ、」
お店を出てからずっと着信を知らせていた携帯。
何度も何度も、切れたと思ったらまた鳴り始めて。
名前を見なくてもわかる、康二くんからの着信だってこと。
それだけが、わたしを外界と繋ぐ唯一の手段だったのかもしれない。
それが、わたしの最後の砦だったのかもしれない。
だめだよ、って頭の中で聞こえてた声は消えてしまった。
「………目黒、くん…」
「……ごめん、」
着信音はもう鳴らなくなっていた。
外界とは、もう繋がらない。
もう、止めるものは何もない。
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作者名：葵
| 作成日時：2023年10月16日 1時
