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自販機で買った水のペットボトルを両手で持つと、熱くなっていた指先から冷たさが広がっていく。
いつ戻ろう。
あまり早く戻ってもメンバーはいるだろうし、
遅くなりすぎてもスタッフに心配かけてしまう。
「はあ……」
気持ちが素直に溜め息に変わった。
「っA！」
刹那、名前を呼ばれる。
ぱっと顔をあげると康二くんが控え室の方から走ってきていた。
「なに、どうしたの」
「なにって！具合悪いって！大丈夫なん！？」
わたしの前までくると、心配そうに顔を覗きこんでくる。
肩で息をして。
メイクも衣装もそのままで。
なに、それ。
「心配してくれたの…？」
「当たり前やんか」
それがさも当然かのようにいい放つ康二くんに胸がぎゅう、と締め付けられた。
嘘、なのに。
ただ控え室に戻りたくなくてついた、しょうもない嘘なのに。
なんでこんなわたしに、この人はこんなに優しいの？
なんでわたしは、この人のことを好きになれないの？
この優しい手をとったら絶対幸せになれるのに。
康二くんの手にそっと自分のそれを重ねる。
「なに？」
「ごめん、ありがとう…水飲んだら楽になったよ」
「そうなん？よかった」
ほっ、と康二くんが笑う。
「ほないこか」
重なっていた手を康二くんが繋ぎ直す。
そして、そのまま控え室に向かって歩き始めた。
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作者名：葵
| 作成日時：2023年10月16日 1時
