きみいがい【橙・黒】 (ページ1)

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わたしが彼を好きになった時、彼にはすでに別の人がいた。
何なら出会った時、ううん、出会う前から彼女がいた。

だからどうこうなりたいとか、そんなこと思ってなくて。
ただ、一緒の空間に入れたらよかった。
彼の笑顔を見れるだけで、彼の視界の端にいれるだけでよかった。

なんて、しおらしい考えができたらよかったのに。

現実のわたしは、そんな女じゃない。

本当は、彼の彼女になりたい。
彼の瞳に映るのはわたしだけでいい。
彼の唇が紡ぐのはわたしの名前だけでいい。

そうしたら、どんなに幸せなんだろう。

声も、笑顔も、指先も。
全部わたしのものになったらいいのに。

どんどん、どんどん欲望だけが募っていく。

でも、彼女の話になると途端に幸せそうに笑う彼を見る度に、その夢は夢でしかないと思い知らされる。

じゃあ早く彼のこと忘れたらいいじゃんって、周りはそう言う。
わたしだってそう思う。
報われない恋をしたところで幸せになんてなれない。

だけど、

そんな単純なものじゃない。
忘れられるならとっくの昔に忘れてる。

忘れられないから、今もこうして、

彼だけを想ってる。

【きみいがい】

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