雪と炎のシンフォニー２【爆豪勝己】 (ページ40)

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窮地ページ40

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Aは窮地に立たされていた。
教室内でいやらしい笑みを浮かべる菊見と２人きりという状況。
掴まれている手は強く、簡単には振り払えそうにない。

何よりも問題なのは──

(声がでない？どうして？)

口から漏れるのは呼吸の音だけ。
これでは隣のクラスはおろか、教室の前を通りがかった人にも助けを呼ぶことができない。

(だったら……)

自衛するしかない。
威嚇の意味を込めて掴まれている腕の周りに冷気を集めた。

(…………え？)

個性が出ない。
なぜ……と分析している暇はない。
ならば熱気をと思ったが、こちらも全く反応がなかった。

(え？え……？)

「だめじゃないか、先生に個性を使おうとするなんて」

にやにやと口元を歪める菊見に、Aは初めて恐怖を感じた。

(何これ、どういうこと……！？)

何かあれば個性を使って追い払えば良いと思っていた。
兄には劣るがAにもそれなりに強い個性が備わっている。

「いやぁ、ここまでするのに苦労したよ。１時間も個性を使いっ放しはちょっときつかった。君は俺の目を見ないからな。耳から干渉するのは時間がかかるんだよ」

(個性？干渉？時間？)

自己紹介でこの男は「他人をやる気にさせる個性」と言っていた。
それは表向きの個性で、実際は他人の思考・行動に干渉するものだとしたら……。

──このままではまずい。

菊見に気づかれないようにカーディガンのポケットにあるスマホに触れる。
指紋認証でロックを解除し、手探りで指を滑らせた。

(お願い、焦凍……っ！)

小さく手に伝わる発信の振動。
それが途切れたと同時に素早く３回、ゆっくり３回、もう一度素早く３回、爪で画面を叩いた。

その動作を何度も続ける。
気づいてもらえると信じて。

「ふん、何を無駄なことを」

しかしそれもすぐに見破られ、ポケットからスマホを取り上げられてしまった。
無慈悲にも電源を落とされる。

「俺を見ろ、A」
「……っ」

顎を掴まれて無理矢理顔を向かい合わされた。
気持ち悪い目が嫌でも視界に入る。

数秒目が合っただけなのに、Aは自分の意識とは違う何かに、頭の中を支配されていくような感覚に襲われた。

(これ、騎馬戦の時と同じ……)

自分の意志が薄れかけた時だった。

Aがいる扉と反対──教壇近くの扉が派手に吹っ飛んだ。

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