愛することすら、許されない２【爆豪勝己】 (ページ37)

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　緑谷さんは片付けていた手を完全に止めて、呆然と私の話を聞いていた。

「命を落としたって……え、でもニュースではヒーローの死亡なんて……」
「彼が亡くなったのは事件の後です」

　知らないのも無理はない。“複数の重傷者”の中に数えられた彼は、その功績と代償を世間に知られることなく、人々の記憶から事件のことが薄れた頃に深い眠りについた。

「事件解決直後、彼は意識不明の重体で病院に運ばれています。それから治療を施されましたが、意識は戻らないままで」
「それは……」
「ええ。いわゆる植物状態ですわ」

　百日紅(さるすべり)家の援助で最新で最高の医療を受けられるように助力した。娘を助けてもらったのだから当然だと、父は惜しむことなく金銭面と人脈で最高の医療を用意した。彼が勇敢なるヒーローとして復帰できるようにと。

　私も早くお礼が言いたくて、目が覚めるのはまだなのかと何度も医者に尋ねた。しかしそれは叶わぬまま。数年後、治療の甲斐なく彼の意識は戻らないままに息を引き取った。

「私(わたくし)が、中庭に足を運ばなければ、……いえ、部屋を抜け出さなければ、彼は今もヒーローとして活躍していたはずなんです」

　とても勇敢な人だった。不安と恐怖に怯える私に優しく手を差し伸べてくれた。

「命を救ってくれた彼を差し置いて、私が幸せになっていいはずがないんです」
「Aさん、それは違う！」
「ええ……わかってます。」

　緑谷さんが言わんとすることは重々承知している。何度も言われて来た言葉だ。父に、母に、兄に。百にも。これは私の独りよがりだと。

「でも……、でもせめて私は自分の人生をヒーローのために捧げたいと思ったんです！」
「Aさん……」
「ここなら……、このＩ・アイランドでならできます！だから私はここに来ることを選択しました！ここで生涯を過ごすことを決意しました────なのに」

　……──なのに、どうしてあなたは来てしまったんですか。

「A」

　赤い瞳が私を見上げていた。涙で揺らぐ視界の中でも、その赤ははっきりと捉えることができた。

　どうか──、どうかこれ以上私の心に入り込まないで。

　きっと私はあなたの将来までも、壊してしまうから──……

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