１３★★「なに驚いてんだ」 ページ39
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Ｉ・アイランドから帰国して数日後。慎重を期して実施された林間合宿は、誰もが予想しなかった最悪の形で幕を閉じた。
☆
「え、」
「なに驚いてんだ」
夏休みもあと少しという時期。図書館に現れた俺の顔を見て、Aは驚きに目を見開いた。
「寮に入られたと聞いたので、てっきりここにはもう……」
「……約束」
「はい？」
「ヒーロー展に行くって言ってたろ」
「あ！」
夏休み前の約束を思い出したAは小さく声をあげた。
「そうでしたわね。私から誘っておいてすみません。いつにしましょう？」
「今からは？」
「構いませんよ。では準備しますね」
Aは読んでいた本を棚に戻し、荷物を鞄の中に詰め込んだ。
☆
ヒーロー展は百貨店の催事場で開催されていた。
念願のヒーロー展。興味のないふりをしながらも心を躍らせていたことは、この女にも気づかれていないはずだ。しかし──……
「随分と人が多いですね……」
「……だな」
特別優待チケットのおかげで待ち時間なしで入れたが、来客数は予想以上だった。オールマイトがヒーローを引退しても……いや、だからこそかつての栄光をもう一度目に焼きつけたいと、同じタイミングで人が押し寄せたのだろう。
「ふぎゃっ」
Aが間抜けな声を出したかと思えば、勢いをつけて俺に突進してきた。正確には後ろにいた人物に押されて、俺の方によろけた。俺の腕を掴んで転ばぬよう踏ん張る姿がなんだか笑えた。
「す、すみませんっ」
「そのまま掴まっとけ」
「え？」
「はぐれたら面倒だろ」
「……そう、ですね」
俺の言葉を聞いて、Aは離そうとした腕を掴み直した。
「そうじゃねえ」
「え？」
「もっと近寄れ。隙間があったら人が入り込んで来るだろうが」
「え、でも暑くないですか？」
「この人混みン中じゃ変わんねーだろ」
普段なら暑い、離れろと言うところだが、口から出てきたのは真逆の言葉。理由までつけて離れようとする女を引き止めた。
「ではお言葉に甘えて。あ、向こうで映像が流れてますわ」
躊躇なく俺の腕に自分の腕を絡めたAは、俺の前を歩いてぐいぐいと引っ張っていった。それでいい。顔が赤くなっているのを見られなくて済む。
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作者名：瑪瑙
| 作成日時：2018年10月25日 0時
